太陽が昇った後、良い天気だったので散歩をすることにして教皇宮を駆けだす。

「なまえ、ちょうどいいところに」

双魚宮を通りかかったとき、アフロディーテに声をかけられた。

「これを教皇宮に持って行ってもらいたいんだ」

そう言って差し出されたのは大量の薔薇だった。
受け取ると前が見えなくなるくらいもっさりと大量にある。それを受け取って彼に聞く。教皇宮と言っても広いからだ。

「ど、どこに?」
「教皇宮の、…少年が眠っている部屋が分かるかい?」
「うん」

この間目が覚めたらいた場所だろうと頷く。
アフロディーテはそこにこれを持って行ってほしいのだと言った。


「アテナに頼まれていたのだが、私はこれから出かけなければならない用事ができてしまったんだ」

部屋に行けば分かるだろうからと言った彼に頷いて薔薇を抱えなおした。濃いバラの香りにくらくらする。
だがそう遠い距離でもないから問題ないだろうと双魚宮を出た。途中通りかかったミロに「薔薇が歩いているのかと思った」とか茶化されながらもなんとか無事に教皇宮にたどり着く。雑兵さんに扉を開けてもらって奥へと進んだ。

確かあの部屋は教皇宮のずっと奥にあったはず。
行きは夢うつつ、というより半分以上寝ぼけていて覚えていないが、帰りは沙織とシオンに連れられて歩いたからよく覚えている。

そしてたどり着いた部屋の扉をなんとか一人で開けて中に入った。
明るいその部屋の奥ではこの間と同じで、やっぱり少年が眠り込んでいた。
随分と眠る子だ。どこか悪いのだろうか。

そんなことを考えてぐるりとあたりを見渡した。
アフロディーテはここに来ればわかると言ったが、何もわからない。この大量の薔薇をいったいどうすれば良いのか。

しばらく困りながらそこに立ち尽くす。


その時背後で扉が開いて、可愛らしい声が響いた。

「あ…、えっと…どちら様でしょうか…?」
「あの、薔薇を持って行ってほしいと言われたんですが…」

振り返った先にいた少女は私の言葉を聞いて、私の手の中の大量の薔薇を見て目をぱちりとさせた。

「ありがとうございます」

すぐにふんわりとした笑みを浮かべた彼女が歩み寄ってきて私から薔薇を受け取った。女神からかと問われ、彼女に指示された魚座からだと言えば彼女は納得したのか頷く。

「あとでお礼にいかなくちゃ」

そして部屋の奥から花瓶を持ってきた彼女が薔薇を活けて少年の横に置く。

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