丁度、双魚宮と教皇宮の間の階段を下りているところらしい。急いで教皇宮から出て彼を追いかける。

すぐに階段を駆けていけば、少し先に風になびく金髪が見えた。名前を呼べば立ち止まって振り返ったサガのもとまでかけていく。

「なまえ、おはよう」
「うん、おはよう、サガ!」
「私に何か用か?」

微笑んで聞いてくれた彼に頷く。えっと、褒め言葉、褒め言葉…(抱き着くのは恥ずかしいから無しだ!)

「あのね、サガに言いたいことがあって」
「私に?」

それはなんだろうかと聞いてくれた彼に向かって、拳を握りしめて口を開いた。

「サガの几帳面で些細な約束も覚えていてくれるところが好き!」


サガが目を見開く。あれ、照れない。

「それから優しいところと、一緒にいると楽しいし落ち着くこととか、サガと一緒にいるとほわほわしてくるし、えっと、あれ?」

だんだんと自分でも何を言っているのか分からなくなってきた。しかもサガは私とカノンの想像のように照れるどころか、どこか茫然とした表情を浮かべているだけである。

途端に自分が何かとても恥ずかしいことをしている気がしてきて口を噤んだ。そうすれば一瞬で私たちの間を沈黙が支配する。

「あ、えっと」
「……なまえ、」
「や、やっぱり今の無し!なんか恥ずかしい」

目をぱちりとした後に、私の言葉に苦笑した彼が教皇宮に視線をやって、そのあとに腰に手を当てた。

「カノンに何か言われたな?」
「うっ…、鋭いね…!なんでわかったの?」
「何が目的かは知らないが、私たちはあれにからかわれただけのようだ」

サガは苦笑いをしながらそう言った。

「か、からかわれ…?」
「何がしたいのかは知らないが恐らくそうだろう。なまえは何がしたかったのだ?」
「興味本位でした…、すみません」

肩を下げてそう謝ればサガは笑って気にしなくていいと言った。ううん、やっぱりこの人は優しい。

「なんだ?」
「あ、なんでもない」

つい彼のことをじいっと見つめてしまい、彼が不思議そうに小首をかしげたのを見て慌てて手を振った。それにサガはしばらく首をかしげていたが、やがて口を開いた。

「それでは、私は宮に戻るが…」
「うん、引き止めちゃってごめんね!!」
「いいや、気にするな」

そして歩き出したサガの背中を見送る。
だがふとまだ言っていないことを思い出して、一歩階段を下りて立ち止まる。


「でもね、サガ!」


その言葉に立ち止まった彼が私を振り返った。階段の段差のおかげで、いつもは見上げる彼の目が、同じ高さにある。
微笑んで、私の言葉を待ってくれているサガに私も笑って言った。


「さっき言ったことは本心だから!」


(あ、笑った)(嬉しそうな顔で!)

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