金牛宮でアルデバランと別れ、アイオリアと二人で教皇宮にたどり着いたとき、空はすでに暗くなっていた。夕方だというのもあるが、空を覆った曇天もその原因である。
「今にも降りそうだねぇ」
「そうだな、降り出す前に十二宮に戻ることができて良かった」
そう言ったアイオリアと教皇宮に足を踏み入れる。
「アイオリアは教皇宮に何をしに?」
「書庫に」
「そっか、じゃあ途中まで一緒だ」
それに頷いたアイオリアと二人で教皇宮を進む。
「今日は手伝ってくれてありがとう!」
「いいや、あまり普段はああいったことはしないが…良い運動になるな」
「確かにね!」
「また時間があるときは手伝おう」
「ありがとう!」
笑ったアイオリアに私も笑い返す。
丁度その時奥からサガとアイオロスがやってきた。教皇の間から出て来たところらしい。彼らは私たちを見ると、珍しい組み合わせだと言って少し驚いた後に笑った。
「そうだ、なまえ、カノンがまたなまえに会いたいと言っていたぞ」
「え?そうなの」
「随分となまえのことを気に入ったらしい」
「…私何かした?」
その言葉にサガはくすくすと笑っただけで答えなかった。首をかしげる私に、サガはまた微笑むと「それでは、また明日会おう」と言って教皇宮を出て下へ降りて行った。
アイオリアとアイオロスと共にそれを見送った後、私も部屋に戻るために歩き出す。アイオロスはアイオリアが書庫に行くのなら自分もついていこうと言って一緒にやってきた。
柱廊に入り、そろそろ二人と別れるところで立ち止まる。柱廊の先を曲がればすぐ私の部屋だ。
「それじゃあ、また明日」
「ああ、それではな、なまえ」
「うん、おやすみ、アイオリア、アイオロス」
眠るにはまだ少し早かったが、もうこの後夕食後に彼らに会うこともないだろうからとその言葉を選んだ。アイオリアは笑って、アイオロスは頭を下げてそれに答えてくれた。そして手を振った私の頭をアイオリアが撫でてくれる。
「良い夢を」
「アイオリア!」
彼のその言葉に笑顔でこたえようとしたとき、アイオロスが鋭い声で彼を呼ぶ。少し大きなその声にびくりとしたのは私だけでなく、アイオリアも目を丸くしてアイオロスを見た。そんなアイオリアを見てもアイオロスは表情を変えない。
「女神の頭を撫でるなど不敬だ」
厳しく言い放ったアイオロスにアイオリアは眉を落として謝った。
「すまない、兄さん。なまえも、」
「ちょっと待って、私そんなこと気にしない」
「ニケ、これは我々の問題です」
きっぱりと言い切ったアイオロスに私が何も言い返せず口を噤めば、柱廊に沈黙が広がる。
雷鳴が轟いてきた。
雨が、それもひどい雨が降るかもしれない。
厳しい表情を崩そうとしないアイオロスに、アイオリアが何かを言おうとしたとき不思議そうな顔をしたミロが通りかかった。
「おい、アイオリア。丁度良かった、アテナがお前を呼んでいたぞ」
「…なに、アテナが?」
「ああ、アテナ神殿でお待ちだ」
そう言ったミロに、アイオリアがアイオロスを見た。アイオロスは表情を変えることなく「女神をお待たせすることは許さん」と言う。その言葉に「ああ、すぐに行こう」と言ったアイオリアがミロと一緒にその場から駆け出した。
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