「何故かばった」
その言葉に馬鹿女はこちらを見て黙り込んだ。


教皇宮に俺がいたのは本当に偶然のことだった。運よく任務が早く片付き、今日中に聖域に戻ってくることができたのだ。本来なら明日の午後に戻ってくる予定だった。


だから、今晩俺がこの場所にいたのは本当に偶然のことだった。
いくつかの不穏な小宇宙を感じて、見学でもしてやろうと足を運んだのも本当にただの気紛れ。


だがその気まぐれで全て理解した。

アイオロスやサガ、そして教皇までもが必死になって探し回っている勝利の女神を傷つけた人間。それがあの巫女だったんだろう。随分と頭の悪そうなやつだった。顔は良いが、頭はいまいちだ。

女神に暴力を振るえばどうなるか、わからん巫女などいないはずだ。
馬鹿な女。

そしてこの馬鹿女も同じ。女神ニケとしてこの間の怒りを晴らすことは容易だったはずだ。
まず雑兵を放っておけばよかった。そうでなくとも今からでも黄金聖闘士である俺や、誰かに伝えれば事は一瞬で済む。

女神の名をもって命令されれば、俺達はそれに逆らえないのだから。

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