「私のこと覚えているんでしょ!なんで助けたのよ!そんなに勝ち誇りたい!!?」
「え、ええ?」

どこかで会ったような彼女の口ぶりに必死に頭をひねる。
覚えがない。

式典の時に舞を指導してくれた巫女さん…は、もうちょっと幼い女の子たちだった。

だからその子たちではない。他に、巫女さんに知り合いや話したことがある人は…、と考えて閃いた。

「あっ!あの夜の!!」
「そうよ!あの夜の…」
「美人さん!」
「…は?」

思い出せたことにすっきりしながらドヤ顔をした私の胸を彼女がたたいた。

「けふっ」

ちょっと今のは痛かったんだぞと彼女を見れば、彼女がボロボロと涙を流し始めたものだからその言葉は喉の奥に息とともに飲み込まれた。

「え、ちょ…!な、泣かないで!」
「…!…ば、馬鹿じゃないの!馬鹿じゃないの!!あんたは本当に馬鹿よ!!」
「いたたたたっ」

そう言った彼女に思い切り頬をつねられる。
なんでこんな目に合っているんだろう?そんなことを考える間もなく彼女が手を放す。

「お、覚えていなさいよ!!」
「そ、それは悪役の台詞…」

私のそんな言葉も彼女の耳には入らなかったらしい。さっさと駆けて行ってしまった彼女の背中を茫然と眺めた。


よく分からないが、一件落着したのだろうか?


「…?」

ざわりと吹いた風が木々を揺らした。冬の夜の風は冷たい。肌掛けがあってもやはり寒いものは寒いのだ。

そろそろ私も教皇宮に帰ろうと立ち上がる。うん、そしたら早く寝よう。なんだか疲れた。

そして一本の木の横を通り過ぎた時そこに人影が見えてびくりとする。

勢いよく振り返り見たそこには、木に背中を預け、腕を組んで私を見ているデッちゃんが立っていた。


まさか、見ていたのだろうか。
別にやましいことは何もしていないはずなのだが、陰で自分のしていたことを見られているというのは中々恥ずかしいものがある。適当に誤魔化そうと「今日は月が綺麗だねー」なんて言ってみたのだが、デッちゃんは表情一つ変えることなく赤い目で私を見つめ続けた。

月光が彼の赤い目を細く鋭く照らす。


「何故かばった?」


彼はそう言うとまた、すぐに口を閉じて私を見つめた。

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