私が考えをまとめるのとほぼ同時に、雑兵たちも覚悟を決めたのか笑い始める。すぐに伸びてきた腕が私の胸倉をつかみ引き寄せられた。

「そもそもこんな何の変哲もない女が神のはずがないんだ!」
「殺してしまえ、日本人など!」

振り上げられた腕に目を閉じた。



沙織を思い出せ。

…いや、アテナの姿を、私は覚えているはずだ。


式典の日、厳かな笑みをたたえ、巨大で安らぎに満ちた小宇宙を燃やした、アテナの姿を。



ふつりと胸に湧き上がったそれをそのまま全身に広げる。自分の中の宇宙を、一気に高め広げあげた瞬間、巫女さんが背後で声を上げた。

「小宇宙…ッ!?」

高めあげた小宇宙は精神を落ち着かせる。いや、落ち着いていないとそれを維持することはできない。耳に響いた彼女の言葉に目を伏せて、そして開いた。
はったりだと呟いた雑兵の振り上げられたまま動きを止めた手に手を添えて、笑んだ。


「神に手をあげるか」
「…っ!」
「ニケはその行いを許さぬ」


添えた手に小宇宙を流し込む。動きを止めていたそれが、ぱたりと振り下ろされた。




「弁えよ、人間」




小宇宙を込めて発した言葉は声量は小さくとも、私たちの間に響き渡る。そしてそれは実に大きな効力を発してくれた。今ほどこのニケという名前と小宇宙に感謝したことはないだろうと考えながら、あっという間に散り散りになった男たちの背中を見送る。

そしてズルズルと地面にへたり込む。
怖かった。あとからガクガクと震えてきた膝を抱いた。

「あー…、良かった」

死ぬかと思ったわとつぶやいて、後ろでしゃがみ込んだままの巫女さんを振り返り視線を合わせた。

「大丈夫?」
「あんた…な、んで私なんか助けたのよ!!」
「ええっ!?」

突然腕を振りかぶった彼女に慌てて目を瞑る。なんで私怒られているんだろう?それを考える隙もなかった。
だが、いつまでたっても痛みは訪れず、そろそろと目を開けば、手を振り上げたまま涙を必死に堪える巫女さんの顔が見えた。ふるふると震えていた手がゆっくり地面に下ろされる。

「あんたは馬鹿よ、本当に馬鹿!ただの馬鹿!」
「そんなに馬鹿って言われたの初めてなんですけど!」


心外だと笑えば彼女が私の襟首をつかんで引き寄せた。ぐっと近づいたエメラルドグリーンの瞳が私を覗き込む。高揚しているのか赤い頬で彼女が叫んだ。

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