一人の巫女さんを囲むように立っている男たちが来ている服にはよく見覚えがある。

聖域を守る雑兵たちのものだ。

こんな時間になんとも妙な面子で騒いでいるものである。
どうすべきか分からず少し離れた場所で立ち止まった私のところまで、彼女の声が今度はよく聞こえてきた。

「離してよっ!!私はアテナの巫女よ!こんな狼藉が許されると思っているの!?」
「ご存知ですか。黄金聖闘士と教皇様、そしてアテナ女神までもがこの間の暴行事件の犯人を捜していらっしゃる」
「何が言いたい訳!」
「我々がこのことを黄金聖闘士様や女神にお伝えすれば、たちどころに貴女の今の地位が消えるということです」

その言葉に巫女さんが息をのんだ。一体なんの話をしているのかよく分からなかったが、良い雰囲気ではないということはよく分かった。


「違う、私はただアテナのためを思ってあの行動を起こしただけよ…!」
「それを、アテナは理解されないでしょう。アテナにとって大切なのは貴女ではなく彼の女神だ」
「……っ!!」
「射手座様は犯人は死罪になるだろうとおっしゃっていた。貴女としてもあの件の真相が公に出るのを好みますまい」

笑った男たちに、巫女さんが泣き出しそうな顔で首を振る。

「私は、アテナのために、」
「それは誰にも理解されない。貴女の行為はただの傷害であり自己満足だった」
「違う、私、」
「我々は何も貴女の行為を知らしめようとしているのではない」
「互いに共犯にならなければならないのだから」
「とっくに共犯じゃない!!貴方たちだってあの子を殴った!」
「そう、私達もあの件が公になるのを望まない」
「だから我々は黙っているつもりです。貴方が誠意を見せさえすれば」
「これからも貴女が女神にお仕えするためにも悪い話ではないでしょう」

その言葉に巫女さんがとうとう泣き出した。
なんだこれ、虐めか!女の子一人に男が何人も寄ってたかって情けないとは思わないのかと走り出す。

そして巫女さんの服に触れようとした男の手にチョップを食らわせてやった。

「いてっなんだよお前!!…ニケ女神ッ!?」
「いじめっ子ですか、貴方たちは!いい年して!」
「ち、違うのです!これは…!!」

慌てて何やら弁明し始めた一人の雑兵の後ろで別の雑兵たちが囁きあう。どうやら私をこの巫女さんごと口封じに片付けてしまおうという話らしい。一体どういう片付け方をされるのか知らないが、まったく反省している様子のない男たちに少し焦る。

一人で倒せるわけがないからだ。

というか私はサガやアイオロスのようにオリンピックに出られるような力なんて持っていない!石壁なんて破壊できないし、柱だって蹴り崩せないし!
だからこの雑兵たちが襲いかかってきたらひとたまりもない。

…どうしよう。

考えなしに飛び込んできた私が悪かったのだろうか?
サガや…、宮の近いアフロディーテを呼んできた方が良い?それとも小宇宙を通じて呼び出せるだろうか。
以前ニケ神殿で倒れた夜にサガに呼びかけて以来使っていないから、できるかわからないが、…そうするしかないだろうか。


いや、

「……」

守られているだけでは、私はここを守れない。なぜ私がニケとしてここにとどまることを決めたのか?綺麗なこの場所や、優しい人たちを守れるのなら、と思ったからだ。そのためには、いつもいつも守られているわけにはいかない。

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