部屋で椅子にどっかりと腰をかけて足を組んでいたカノンは私を見ると目を丸くした。マフィンを作ったからよかったら食べてくれと言えば、その目はさらに丸くなる。
コーヒーを煎れようと言ってこちらに背を向けたサガの背中を見たカノンが顔を顰めた。

「どこが女神なんだ。マフィンを作る女神だと?ふざけているのか」
「なまえは料理をよくする」
「そしてお前は神を部屋に連れ込むのか」
「人聞きの悪いことを言うものではないぞ、カノン」


こちらを振り向かずコーヒーメーカーをいじり始めたサガの背中を顰めっ面で眺めていたカノンがこちらを見た。

「ふざけた話だ」
「ですよねー」

これが普通の反応なのだ。こんな私みたいなやつが女神だと言われて初めから信じる人なんていない。そもそも私だって自分が女神だと心の底から信じているわけでもないのだ。当然か。


「これが女神だと?くそったれめ」
「カノン、言葉を正せ」


サガと同じ顔で吐き出された言葉は、サガが決して口にしないような言葉だった。その言葉に私が目を丸くするのを見たカノンは顔を盛大に顰める。その表情も、サガが浮かべているところを見たことがないものだった。

「なにか文句があるのか」
「いや…、あの…」
「はっきり言え」

サガはこういう時、私が何か言いだすまで優しい微笑みを浮かべて待っていてくれる。カノンは少しイライラした様子でさっさと言えとせかす。それは、性格だろうか。

似ている似ていると思っていたのだが、と考えながら彼らを交互に見た。

「…カノンとサガってさ」

その言葉に彼が視線をこちらに向けた。カノンに首を傾げて呟く。


「あんまり似ていないね」


その言葉にサガは勢いよくこちらを振り返り、その勢いでコーヒーメーカーから熱いコーヒーを零して慌てて布巾を取りに台所へ駆けていった。

私の正面、一番近くで話を聞いていたカノンは目を丸くした後、すぐに大笑いをした。そんな二人に少し焦る。


「え、あ、ごめん!忘れて!失礼なこと言ったでしょ、私!」
「なるほど、女神かどうかはさておき…」

くつくつと笑ったカノンがわっしゃわっしゃと力いっぱい私の髪をかき乱した。私はその意味を知ることもなくただ悲鳴を上げることしかできないのだった。


(面白い奴に違いない)

3/3