「なまえ?」
「おい、サガ。なんだこれは」

奥から歩み寄ってきていたのはサガで、彼にサガとそっくりな顔のおにーさんが私を指差して声をかけた。
その問いにサガが目を伏せて、私が悩んでいたことなどまったく気にしないかのように言う。

「勝利の女神だ」

おにーさんはその言葉に目を丸くした後にくつくつと笑って腰に手を当てた。

「そのジョークはお前にしてはなかなか良いと思うぞ」
「冗談などではない。なまえ」

呼び寄せられて、彼のもとに歩み寄る。

「彼女はアテナと同じように現世に降臨していたのだ」
「ならば仮にそうだとして聖戦の時に何をしていたのだ」
「日本にいた」
「アテナの役に立たない勝利の女神だと?それは偽物だ」
「…違う、カノン。アテナもそうおっしゃっている」

背の高い二人が頭上でかわす言葉になんだか入り込むことができずに黙り込む。だがサガの最後の言葉に顔を顰めたおにーさんがまた私の顔を覗き込んできたことに驚いて声を上げる。日本人の私には近すぎる距離だ。

「すみませんすみません、顔に目とか鼻とかついていてごめんなさいっ」
「なまえ、それは当然のことだ」

呆れたように言ったサガに、おにーさんは「信じられん」と呟いてそれでもそれ以上は何も言わずに黙った。
それにサガがほほ笑んで私を見る。

「なまえ、彼は私の双子の弟のカノンだ」
「…弟がいたの」

それは初聞きだとおにーさんを見る。双子、か。確かによく似ているし、見分けるのは難しいかもしれない。

「…えっと、カノンさん」
「…カノンで良い。…お前が本当に女神ならば」
そう言うなりさっさと宮の奥へ引っ込んでしまったカノンの後ろ姿を見送った。サガが少し困ったような顔をしてこちらを見た。

「少し反抗的だ」
「そう?」
「気分を害したなら謝ろう」
「全然」

それで、どうかしたのかと話題を変えた彼にマフィンを焼いたのだがと言って恐らく成功の部類に入るであろうそれを差し出す。なんといってもデッちゃんが半分以上…、いや60%、……ううん95%くらい作ってくれたのだから失敗はしていないはず。

「いっぱい作ったからサガにもおすそ分け」
「ああ、ありがとう。…もしよければ、コーヒーでも飲んでいくと良い」
「邪魔じゃない?」

せっかく弟さんが来ているのにと言った私にサガは微笑んで入れと言った。

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