「さむしさむし…」

手をすり合わせながら何度もそう繰り返した私の言葉にミロが首を傾げた。

「なんだ、それは?」

さむしさむしと言った彼に言う。

「めちゃくちゃ寒いってこと」
「方言か?」
「私の造語」

なんだそれと笑ったミロに笑い返す。
他にも「寒すぎて意味がわからない」とか「さむっちょ」とか寒さを表す私の造語はたくさんあると言えば何がおかしいのかげらげらと笑ったミロがソファに背を預けた。

「シベリアに行ったら、その言葉にオンパレードになるだろうな。他には何も言えなくなるぞ」
「シベリア?ミロはよく行くの?」

日本に近いよねと言えば、ミロは奥でコーヒーを淹れていたカミュを指差した。

「カミュが弟子をシベリアで育てていたから、俺も昔はよく遊びに行った」
「へえー!シベリアか…、どんなところなの?」
「一面の雪景色…、いや、雪しかない場所だ」

コーヒーを私たちの前に置いたカミュがそう言って私の正面に座った。ミロがいまだ笑いながら人差し指を立てる。

「花が咲くことだってある。青や黄色の花だ。氷河とアイザックがお前の誕生日に大量に積んできて三人で花だらけになっていたところを俺は見たぞ」
「良い子たちだ」
「…あ、そうだ!氷河君と言えば、カミュに荷物を預かっているよ」
「なに、氷河から?」

がたりと立ち上がったカミュにミロが呆れたような顔で「座れよ」と言う。
彼はすぐに平静を取り戻しソファに座り直し、私が紙袋から取り出した小包を受け取った。

「開けないのか?」
「あとでゆっくりと開けさせてもらう」

心なしか喜びのオーラを体から発しているカミュに、またミロが呆れたような顔をする。

「変わらないな、お前」
「ミロ、お前には分かるまい」

カミュはそう言って目を伏せた。
ミロはそれに何か言おうと口を開いたがすぐに閉じた。どうしたのかと彼を見た私たちから視線をそらして窓を見ていた彼が外を指差す。

「雪が降ってきたな」
「…ほんとだ」

ぱらぱらと白い結晶が窓の外で待っているのを見て窓際に駆け寄った。どんよりと重たそうな雲が次々と白を降らす。

「どうりで今日は冷えるはずだな」
「シベリアに比べれば大した寒さでもあるまい」
「おい、なまえ、窓を開けるな!」

寒いと言ったミロに開けかけていた窓を慌てて閉じる。私の住んでいたところでは雪は珍しいからつい、と言い訳をしつつ外を眺める。

「雪なんて眺めても何も楽しくないだろう」
「そんなことないよ、綺麗だもん!」
「雪が好きか」

こちらを見てそう言ったカミュに頷く。彼も満足げにそれに頷くとまた言った。

「ならば今度シベリアに行ってみると良い」
「そうだね、考えておくよ」

そうすぐに旅行に行けるような場所でもないから、ゆっくりと予定を立てようと思いながらまた窓の外に視線を戻した。
随分と振っているようで、地面にはもううっすらと雪が被さっていた。

シベリアには今すぐ行くわけにはいかないが、ここでもできることはある。
ひらひらと振る雪を眺めつづける私を呼んだカミュとミロに振り返って笑った。


「雪が積もったらみんなで雪だるま作ろう!」

カミュは薄い笑みを浮かべて頷いて、ミロは嫌そうな顔をした。


(自ら進んで寒い思いをする必要はないだろ!)
(臆しているのか、ミロよ)
(…!!違う!!見ていろ、俺が一番大きな雪だるまを作ってやる!!)
(…カミュ、貴方ってミロの性格をよく心得ているんだね)

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