石畳の道を進めば、すぐに右手にたくさんの小船が停泊し左手にはお土産屋さんやカフェ、タベルナや宿が並ぶ港にたどり着く。
オフシーズンだからか店を閉じている場所も多い。だが逆にその人気のなさが情緒溢れる港町を演出しているようでなんとも気持ちがいい。
潮の香りを胸にいっぱいに吸い込んでくるりと一回転した。景色も良いし、海も好きだしここは最高だ。
「どこのお店にしよう?」
「もうしばらく行ったところにある大きな犬を飼っているタベルナだ」
「了解ー」
大きな犬、大きな犬と考えながら歩き出す。
だが、ふとサガの小宇宙が付いてきていないことに気が付いて振り返った。
サガはどこかぼんやりとした表情で海を眺めていた。
波の音が響いて、潮の香りが一層強くなった気がする。
「なまえ」
「うん…?」
なんとも形容しがたい表情を浮かべていた彼が海から視線を外さずにぽつりと私を呼んだ。
「会いに行こうと思う」
すぐに続けられたその言葉の意味を一瞬理解しかねたが、すぐにこの間の彼が言っていた“会いたい人”のことだろうと理解して頷く。
決めるのは私ではなくサガだ。
「会いに行こうと思う」
もう一度そう言った彼が笑った。
「ありがとう」
穏やかな声色で告げられたその言葉の意味は今度こそ分からなかった。だから返事ができなかったけれどやがて私も微笑んで言った。
「ありがとう」
私なんかに相談してくれて。少しは頼ってくれているって考えても良いんだよね?私がサガを頼るのと同じように、サガも。私なんかで力になるのかは分からないけれど、それでも私は大好きなサガの力になれるのなら、それは幸せなことなんじゃないかと思う。
冬の港は寒かったけれど、私は寒さなんて感じなかった。むしろほこほこと心が温かいそんな気がする。
「ありがとう」
これは、サガのおかげだ。
3/3