ふと握った手に力が込められて顔をあげた。サガが不思議そうな顔で私を見ている。

「なまえ?大丈夫か」
「あ…えっと、あれ?なんだっけ?」

私は何をしていたのだったかと言えば、サガが本格的に心配そうな表情を顔に浮かべて私の顔を覗き込んでくる。

「大丈夫か、具合が…」
「違う違う!元気なんだけれど、ぼーっとしていたっていうか…、立ったまま夢見ていたのかな?」
「それは随分と器用なことだな」

苦笑を浮かべた彼が、正面を指差す。

「ついたぞ」

そう言った彼の向こうに広がるのは何処までも続く澄んだ青を湛える海。そうか、私はサガに海へ連れてきてもらったんだった。

そして今到着したのか。ぼんやりしていて道中のことを覚えていない。
だがともかく海にたどり着いたのは今だ。それでは、私は今日一日中海を眺めていた気がするのはなんでなんだろう?


「ねえサガ、小宇宙で何か私に見せた?」
「…?いいや、何も」
「…そっか」
「なまえ?」
「綺麗だね」

日本の海とは色が違うと笑えば、サガはしばらく不思議そうに私を見ていたがやがて微笑みを浮かべて海に視線を戻した。
しばらくしてサガが港を散歩してみようかと言う。タベルナもあるからそこで昼食をとっていくのもいいかもしれないと言った彼に頷いて駆け出した。サガも慌てたように追いかけてくる。

「走らずともタベルナは逃げん」
「お腹が空いたの!スブラキが食べたいけど、イェミスタでも良いね」
「食後のデザートにピスタチオのアイスを頼もうか」
「最高」

すぐにサガが私の横に立った。涼しい顔がちょっとムカついて本気で走った。でもサガはまったく表情を変えずについてくる。

「早い!」
「あまり無理をすると転ぶぞ」
「はあっ、もう無理…!」

徐々にペースを落として、最終的に立ち止まる。膝に手をついて肩で息をすれば、サガがくすりと笑った。サガは汗の一つもかいていない。何この体力差。そういえばアイオロスもマジでムキムキだったな。略してAMMとか言っていたけれど、サガもマジでムキムキだからSMMでもいいんじゃないか?

「筋力つけよう…」
「あまり無理をして体を痛めないようにすると良い」

そう言ったサガに笑い返して親指を立てた。まずはジョギングから始めようかなんて考えながら再び歩き始める。もう息はだいぶ落ち着いていた。

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