ずっと海を見ていたのだと思う。
その色がとても美しくて、そして愛おしくて。
明け方から夕暮れ、太陽がアイゲウスの名を持つ海を葡萄酒色に染め上げる時間まで、ただずっと一人で海を眺めていた。
「風邪をひく」
「残念ながらこの体では風邪などひくことができません」
肌触りの良い布を後ろからかけられる。
振り返れば、夕焼けに赤く染められた彼が美しいその顔に笑みを浮かべて立っていた。
帰ろうと言った彼が私の手を引く。
そして冷たくなっていると少し怒ったように言って何をしていたのだと聞きながら振り返ってきた。
それに笑みを返して誤魔化す。
その答えをこの人に言うのはなんだか気恥ずかしい。
私が海に来たのは、海の色が愛おしかったからだ。
そして海の色が愛おしいのは、それが彼の瞳の色だから。
だから、この人がいるのなら、私はもう海を眺める必要はないと、握った温かなその手に力を込めた。
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