自然がいっぱいの聖域に返ってきた。

少しは慣れたのか、帰りのフライトではぐっすりと眠ることができた。快適な空の旅とはこういうことかと納得しながらセスナを降りて、澄んだ空気を思い切り吸い込んだ。


常葉の木々の茂る森を抜けて、十二宮にたどり着く。
沙織と競争してどちらが早く教皇宮までたどり着くかを試して、結局敢え無く金牛宮にたどり着いたところで私がギブアップをした。
用があるから先に戻っていると笑った沙織とアイオロスがそこを立ち去り、私はサガと二人でのんびりと十二宮を上った。

「ごめんね、体力つける」
「謝る必要はないし、そう急ぐ必要もない」
「ありがとう、サガ」


微笑んだサガに笑い返して、それでも長く続く十二宮を見上げ体力をつけようと決意するのだった。もうこの階段を上ることはまったく苦ではないが、それでも駆け上るにはまだ体力が足りない。


しばらくしてたどり着いた教皇宮で、私はまず部屋に荷物を置いてくることにしてサガと別れる。別れ際、彼が立ち止まってほほ笑んだ。

「…今度、時間がある時に海に案内しよう」

笑みを返して、部屋に向かった。




「ただいま、シオン!」

部屋に荷物を置いてから教皇の間を訪れれば迎え入れてくれたシオンにそう言う。
彼は微笑んで「おかえり」と言って私を招きよせた。

「なあに?」
「しばらくしていなかったからな」

そう言ったシオンにわしゃわしゃと頭を撫でられる。髪の毛があっちゃこっちゃに跳ねてしまっているだろうことを想像して慌ててシオンから離れればシオンが笑った。

「雀の巣のようだ」
「誰のせい!」

その言葉に一瞬で表情を引き締めた彼が「なまえか?」と言う。

「よく真顔でそんなことを言えるね」

私の頭をぐしゃぐしゃにしたのはシオンだと笑いながら言えば、シオンもすぐに笑みを浮かべた。

「こう…、ちょうどいい位置にあるのだ」
「訳わからないよ」

くすくすと漏れる笑いを押さえずに彼にお土産を手渡す。
カステラサイダーと、カレーマドレーヌ。
瞬君たちのように微妙な顔をされた。かと思えば一応本命である和菓子を渡せば彼は途端に頬を緩ませる。


「あとで頂こう」
「うん、ムウや貴鬼にも渡してあるからみんなで食べてね」
「ああ、礼を言おう、なまえ」
「それじゃあ、皆にもお土産を渡してくるね!」


微笑んだシオンに手を振って教皇の間を後にした。そのまま教皇宮を出て青空を見上げる。日本の空気も好きだが、聖域の澄んだ空気も大好きだ。

しばらくそうしてぼんやり過ごした後に足を進める。
とりあえず、双魚宮から十二宮突破を始めようか。



皆カステラサイダーとカレーマドレーヌに紫龍君と同じような反応をしたのが少しだけ面白かった。
けれど和菓子は喜んでくれたから良かった。

デッちゃんにはまっすぐ歩く蟹を渡した時拳骨が降ってくるのは想像していたから華麗に避けることに成功した。だが結局追撃されて地面と熱々キッスを送るはめになるのだった。

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