「星矢、具合がよくなっているみたいで良かったね」


その言葉に紫龍が頷いて緑茶の入った湯呑に口を付けた。
氷河も窓からセスナの飛び立った方向を見ながら頷いて腕を組んだ。


「星矢のことだ。これだけ眠り込んでいたほうがおかしい」

氷河の言葉はぶっきらぼうなものだったが、それでも星矢を心配しているということはよく分かったから微笑んで頷いた。

どちらにせよ、彼の言葉のとおり星矢がこれだけ寝込むほうが珍しいのだ。いつも一番最初に起き上がり、一番最後まで立っているのは彼だったのだから。


「きっとすぐに前みたいに笑いあえるようになるよ」
「そうだな。騒がしくなるぞ」

紫龍が笑みを浮かべて今から覚悟を決めておかなければとからかうように言った。その言葉を星矢が聞いていたらまた騒ぐのだろうと想像してくすりと笑う。
だが、ふと表情を陰らせた紫龍にどうかしたのかと尋ねれば、彼は少し躊躇った後に結局口を開いた。


「星矢の具合がよくなったのはニケが聖域に来てからなのだろう?何か引っかからないか」
「どういうこと?」
「いや…、また何かが起ころうとしている気がしてならなくてな。もしかしたら何の関係もない偶発的なものなのかもしれないが…」


そう言って湯呑を机に置いた紫龍に氷河が目を伏せたまま「気にしていても仕方があるまい」と返す。
紫龍はしばらく何かを考えていたが、やがて氷河のその言葉に頷いて茶菓子に手を伸ばした。


少しだけ沈黙が部屋を満たす。

彼らと過ごす沈黙は決して嫌いではなかったけれど、今ばかりはなんだかそれが重たく感じてわざと明るい声を出して紫龍と氷河に提案する。


「ねえ、僕たちもさ、冬休みは聖域に行かない?星矢のお見舞いに行こうよ!今度はカミュとか老師、それに黄金聖闘士や女神たちにお土産を持って、直接会いに」


カミュと老師の威力はこの二人には絶大だ。
反対は出なかった。

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