「派手にやったな、氷河、紫龍!」
「アイオロス!なまえは?」
「無事だよ。まったく、場所を弁えろと言いたいところだが…紫龍、氷河、ずっと日本にいたから少し鈍っているのではないか?後で訓練をつけてやろう」

その言葉に辰巳さんが下でぎゃあぎゃあと騒ぎ出したが、アイオロスは高らかに笑っただけで、それに何かアクションを取ることなく窓を閉めた。
辰巳さんが、まだ話しているのに窓を閉めた。


なんて強引な話の切り上げだと少しばかり呆気にとられながらも、にこにこと機嫌が良いのか笑ったアイオロスの爽やかな顔に黙り込んだ。
…よく分からないが、本人があれでいいのならそれで良いのだろう。


「それにしても一体どうなっているの?」

聖闘士の攻撃はそれはもう私の理解の及ばないところにある。
そういえば、聖域にいた時もアイオロスが石の柱を蹴り崩していたな。とんでもない攻撃力なのは確かだが、…ふと考える。私も修行をすればできるようになるのだろうか?
そしたら、護衛だなんだと周りに迷惑をかけることもないし、何よりそのほうが沙織や聖域の為になるのではないだろうか。


「ねえ、私も修行とかしたら戦えるようになるかな?」
「それはなりません、ニケ。女神にそのようなことはさせられない」

それまでの和やかな雰囲気を一切消し去って表情を厳かにしたアイオロスに、また何か引っかかるものを感じて首を傾げた。

ああ、そうだ、態度だ。

彼の私に対する態度は氷河君たちやサガに対するものと違う。そして同時にサガやデッちゃんが私に接する時ともそれは一線を画したものなのだ。

「ニケ?」

アイオロスは、私を見ていない。私を通して、常にニケを見ている。

だから彼の態度は常に畏まったものなのだ。そして同時に疑問に思う。彼は何故そうまでして私を女神として扱うのだろう?サガやほかの皆は時間が立つにつれてだんだんと友好的になってくれた。だから私も彼らに好意を抱いたし、分かり合えるのだろうと思っていた。


アイオロスには、それがない。

ここ最近の違和感の正体はこれだ。
それぞれの人がそれぞれの接し方をするというのはよく分かっている。自分が誰からも好かれるような人間ではないということも。もちろん嫌われるより好きになってもらったほうが嬉しいけれど、それを人間として、女神としても強制するつもりはない。
十人十色の人間関係。それでいいと思っている。

けれどアイオロスのそれは何か違うもののように思えて彼を見上げた。


「何故私をニケと呼ぶの」

私のその問いに、アイオロスは表情一つ変えることなく言い切った。


「アテナがそう仰ったからだ」


(それは、貴方の意思じゃないじゃない)

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