「なまえ、ブロッコリーもきちんと食べなさい」

そう言ったのはニケの正面に座っていたサガだった。彼女はその言葉にびくりと体を反応させたあとに視線を泳がせながら「た、食べるよ〜」と言った。あんまり信憑性がないその響きにくすりと笑えばサガが続ける。

「それから人参も残すべきではない」
まるで親子のようなその会話がとても黄金聖闘士と勝利の女神のものとは思えずに微笑ましく思っているとニケが反撃した。

「サガこそ!蒟蒻もちゃんと食べなきゃダメなんだからね!」
「なっ…、今ここに蒟蒻はないだろう、なまえ」
「私の家で肉じゃが作ったときに蒟蒻から逃げていたのを私は見たから!」

紫龍が不思議そうな顔で、「蒟蒻が食べられないのか」と言えば氷河が顔を顰める。

「あれほど理解できない食べ物もあるまい」
「そうかな?僕は好きだよ」
「感触が許せない」

顔を顰めたままでそう言った氷河にサガも頷いた。

「あー、サガは大人なのに蒟蒻から逃げるんだー」
「違う、名誉ある撤退だ」
「なにそれ」

けらけらと笑ったニケがすぐににやにやと笑いながら聖域で蒟蒻栽培しちゃおうかなと言い、サガが苦い顔をして首を振って拒否を示した。

それが僕より十歳以上年上のひとたちの会話とは思えずにおかしいのを必死にこらえる。
でも確かに外国の人は蒟蒻を嫌がるひともいるかもしれない。

では納豆とかはどうだろうか?なんて僕が考えている間にもブロッコリーと人参、そして蒟蒻の話題が繰り広げられる。とうとう食文化の討論にまで発展しかけたとき、それに終止符を打ったのはやはり沙織さんだった。


「サガもなまえも。好き嫌いはせずに何でも食べなさい」

そう言った沙織さんにニケが身をすくめた。サガは「しかしアテナ、ここには蒟蒻はありません」と少し見当違いなことを言ったが「食べなさい」とばっさりと言い切った沙織さんに結局黙り込んだ。


まったくこれでは誰が大人なのか分からない。
結局笑みを抑えることができずに噴き出した。

5/5