「おおっふ…」
「なまえ?」
「なんか美少年がいた。美少年が三人いた。部屋間違えたみたい」

買い物を終え、昼食をとり終わったなまえがアテナに指示された部屋の扉を開けてすぐに閉めた。

そしてしきりに間違えたという彼女に苦笑いして部屋を間違えていない旨を伝える。奥にいる小宇宙を感じて、アテナが会わせたいと言っていた人物たちにも気付いた。「大丈夫だ、なまえ。ここで正しい」そう告げた瞬間に、扉が向こうから開いた。顔をのぞかせたアンドロメダと目が合えば、彼はふわりと少女のように整った顔に笑みを浮かべて頭を下げた。

「サガ、久しぶりですね」
「ああ、久しぶりだな、アンドロメダ。元気そうで何よりだ」
「貴方も、どうぞ入ってください。沙織さんももうすぐで来ると思うから」

そう言った彼がなまえの手を取ってソファまでエスコートした。
まったくどこで覚えて来たのだろうかと考えてすぐにアテナだろうという答えに行きつく。

彼女のあとに続いて部屋に入れば、すでにソファに座っていた紫龍と氷河が立ち上がった。

「サガ」
「久しぶりだな、お前たち」
「ああ、今日は何を?この女性は一体?」

不思議そうにこちらに質問を投げかけてきた紫龍にそれは全てアテナがお答えするだろうと言ってソファに座らされたなまえの隣に立った。なまえは見知らぬ少年三人になぜか妙に緊張しているようで膝の上に手を置いて背筋がぴっしりと伸びている。まるで昨日見た日本のテレビドラマの面接に来た新入社員のようだ。

「僕たち、沙織さんに急に呼び出されたんだ。だから何か報告があるんじゃないかって思って、…その、星矢のこと」

瞬がそう言った瞬間扉が開き鈴と澄んだ声が響いた。

「星矢はいまだ深い眠りについています。…ハーデスの剣によって心臓を貫かれたのです」
「命があっただけでも幸いだったとしか言えないだろう」
「沙織さん、アイオロス!」
「お嬢さん、それでも星矢は」
「ご心配なさらずとも、星矢に関しても良い報告があります。」

いまだ眠り続けてはいるものの容体はどうやら回復に向かっていると言ったアテナに瞬がはた目からも分かるほどほっと胸をなでおろした。氷河や紫龍も落ち着いてはいるが内心は同じだろう。
子供たちのその友情を微笑ましく思いながらも聖域で今も眠り続ける星矢のことを考えた。

あの晩、ニケが爆発的に小宇宙を燃やした日から星矢は顔色もよくなったし、目を覚まさないこと以外は普通の眠る少年だった。

ニケは、いや、なまえは自分が何をしたかを覚えていないらしい。それでも女神がなんらかの行動を起こしたのは恐らく確かなのだろう。なんにせよ、星矢は早く目を覚ますべきだ。アテナのためにも、心配をするこの青銅の仲間のためにも。だがそれも星矢なら心配いらないような気がした。彼はいつだって最後には必ず立ち上がった。絶対に諦めなかった。

アテナに何か有事が起きた時は必ず起き上がった。もう少し、例えば時間が必要なだけなのだろうと考えて目を伏せたときアテナが話題を変えた。

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