そしてたどり着いたゴミ捨て場にゴミを捨ててさあ帰ろうと思ったときにムウが立ち止まった。

「ムウ?」

風が彼の綺麗な金の髪をふわりと舞わせる。それが青空に映えて綺麗だった。

「最近のサガはよく笑うようになりましたし、雰囲気も柔らかくなりましたね。少なくとも貴女が関係しているのだろうと私は思うのです」

あまりにも突然のその話題に頭がついていかず黙り込んだ私を気にせずムウは続ける。

「ありがとうございます」
「…何が?」
「私は、13年間ここで教皇として過ごしたサガがずっと善と悪のはざまできっと苦しんでいたと思うのです」

決して真実ではなかったとしてもそれがあの戦いを見た私の感じたことだったと言ったムウが私を見る。

「最近彼は穏やかになったでしょう。何かきっかけがあったはずです。そして前までの聖域と違うことは貴女がいると言うことです」
「だから私がサガを助けたと?そんなことはないよ、私はそんな人助けできるほど御大層な人間じゃないもの」
「ですが事実サガは吹っ切れたのでしょう。もう彼は苦しむ必要はない。全て済んだ話で、彼のしてきたことはもう許されているのですから。だから彼が前を向くきっかけを与えてくれたこと、彼の仲間として礼を言わせてください」

彼がそう言って空を見上げた。真っ青な空を見上げるムウの表情からはその心情を窺い知ることはできなかったが、それでも彼の言葉がいつものムウのものに比べて少しぶっきらぼうに聞こえて首を傾げた。

そんな私を見た彼がふわりと微笑む。


「13年前サガに殺されたシオンは私の師でした。彼が殺したという確信はありませんでしたが、それでも教皇が何者かにいれ変わっていることには勘づきました。故に私は聖域を離れ、13年間この場所から遠く離れた地で過ごしました。アテナがこの地に戻ることを決意するまで」
「…怒っているの?」


その言葉にムウは黙り込んで首を振った。

刹那、ひゅうと吹いた風に体が勝手にぶるりと震えた。それを見たムウがくすりと笑って羽織っていた上着をかけてくれる。「だ、大丈夫だよ!ムウだって寒いでしょう!」「なまえは病み上がりでしょう、私は大丈夫ですからどうぞ使ってください」「…ありがと、戻ったら私がお茶を淹れるね」「なまえが?…お茶の淹れ方はご存じですか」「知っているよ、もう!どんだけ家事できないと思っているの!」「すみません」なんてくすくすと笑って言ったムウに苦笑いを返せば彼はふと目を伏せて呟いた。


「…決して怒っているわけではないのです。ただあの13年間は決してなくすことはできません。だからこそどう接すればいいのか時折分からなくなるのも確かです」

当時まだ7歳。
師に教わりたいことはもっとあった。
師ともっとともにいたかった。

けれど彼はいなくなってしまった。

それを行ったのは、先輩の聖闘士として尊敬してさえいたサガだった。今のサガには仲間として信頼とある種の親愛を抱いている。サガは実力に伴った正義を抱いてアテナのために闘う。もはや疑念など抱く隙間もないのだ。それでもふとよぎる13年間に首を傾げたくなることもある。彼がシオンを殺した。私は13年間を聖域を離れひっそりと生活することを強いられた。それに首をかしげている間はどうしてもサガに対し余所余所しくなる。違うのだ、そんな接し方をしたいわけではないのに。

「どうしたら良いのでしょうか」


そう言った彼が私を見た。けれど答えを求めたわけではないのだろう、すぐに戻ろうと言って歩き出した。
「ジャスミンティーの淹れ方をご存知ですか?」
その証拠にほら、すぐに話題を変えた。あわてて彼のあとを追いながらその質問に首を振れば、ムウは微笑んで頷いた。
「それでは教えますから、淹れていただけますか?」
「うん!」
先ほどの会話を覚えていてくれたらしいムウに笑って頷く。ムウはそれに微笑みを浮かべたまま前へ進んだ。

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