ほわりふんわりとした暖かな日差しの差し込む、どことなく眠くなる午後のことだった。
しばらく勉強中であるギリシア語の本を眺めていたなまえが私に視線を移した。

「どうしました?」
「そうそう、言おうと思っていたんだけど…、そろそろ日本に一度戻ってもいいかな?」

家族とか仕事とか今どうなっているのか気になるからと言ったなまえに頷く。聖域に来てからもうかなり時間も立っているし、そろそろ良いだろうと考えて手帳を開いた。ぺらぺらと予定が書きこまれたそれと聖域のことを納得いくまで考慮して手帳をぱたりと閉じる。

「良いですよ。では、私も財団の仕事があり、日本に戻らなければならないので、その時にご一緒しましょう」
「うん、ありがとう!」

ではあとでシオンやアイオロスたちにそれを告げに行かなければと考えながら手帳を仕舞った。紅茶のカップに口をつけながら辰巳にも連絡をしなければならないだろうとこの後の予定を立てていく。

誰もが信頼のいく人物だし、仕事も早い。すぐに日本に戻れるだろうとなまえに告げて立ち上がる。なまえも手元の本を閉じて立ち上がって腕を頭上に伸ばし背伸びをした。


「…う、ずっと本読んでいたから肩がこったかも」

顔をしかめてそう言った彼女に微笑む。

「適度な休憩も必要だと言うことですね」
「ねー」
「それでは私はシオンたちに連絡をとってきます。大体一週間くらいで日本に戻れると思いますから、なまえはそれまでに準備をしておいてください」

了解と言って敬礼をしてみせたなまえに笑い、紅茶のカップを机の隅に移動した。
なまえは本を小脇に抱えて、日本へ向かう準備に必要なものを考えているのか指を数えながら何かを呟いている。

そんな彼女の服の裾を掴めば、すぐにこちらを向いた琥珀色の瞳に私が映り込んだ。

「どうかした?」
「日本についたら、どこかご一緒しても良いですか?」
「…?どういうこと?買い物とか?」
「ええ、なんでもいいのです。なまえとどこかに一緒に行きたいのです」

なまえは私のその言葉に目をぱちりとした後にふっと笑みを浮かべた。良いだろうかともう一度聞いた後になまえは何度も頷いた。

「迷惑をかけてすみません」
「迷惑なんて!だって沙織、私は貴女の友人だもの!!」
「!」
「そうだねえ、買い物かー…。洋服とか見る?あ、美味しいカフェ知っているんだ、そこに行こうよ!」

あの場所へ行こう、この場所へ行こうと楽しそうに言っていくなまえに自然と頬が緩むのを感じた。その多くが私は行ったことがない場所だったが、なまえと一緒ならきっとどこでも楽しいのだろうと思えて楽しみが増えたことが嬉しい。

「ええ、なまえ。楽しみにしています」
「私も!」

二人で笑ったあと、私はシオンを探してなまえは私室に戻るため部屋を出た。

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