「なまえは動物が好きなのか」
「うん、好き!」
ぐりぐりと服が汚れることも構わずに子牛に抱き着くなまえがほにゃりと微笑んで、子牛を撫でた。東洋人は年齢より幼く見えるし、動物とじゃれ合っているその姿はひどく和むものがあった。
だが失念すべきでないのは彼女が勝利の女神だということで、先程まで子供が共にいたとはいえ何故護衛する聖闘士の一人もなくたった一神でロドリオ村に来ているのだろうかと疑問を抱く。
そしてすぐに、なまえは時折十二宮を抜けて聖域中を歩き回っているということを思い出して納得する。アテナ神殿からほとんど動かないアテナとはまるで正反対だ。
だが俺が何かを言うより先になまえが子牛にのしかかられて地面に倒れこみ、青空を眺めながら口を開いた。
「アルデバランはいつもここでお手伝いをしているの?」
「ああ、任務がない時は手伝っていることが多いぞ。聖闘士の力があれば、役に立つことも多いからな」
「アルデバランがいれば村の人も大助かりだね!百人力だよ」
「はっはっは!百人力か、そうなら良いな!」
にこにこと笑いながら、どうやら世辞ではなく本心から言ったらしいなまえに嬉しいことを言ってくれるとつい頭をわっしわっしと撫でれば彼女も笑った。それが一瞬ただの少女のように見えて、慌てて手を離した。守るべきものの姿を見間違えるべきではない、そう強く感じたからの行為で、不思議そうに首を傾げて俺を見上げたなまえに話題を変えようと先ほどまでの疑問を投げかけた。
「…そうだ、なまえは、こんなところで何を?」
「…ふっふっふ…、やっとサガの監視から逃れることに成功しましてですね…!」
しばらく風邪をひいていて部屋に缶詰だったらしいなまえはどうやら小宇宙を上手く隠してサガから逃げて来たらしい。
サガから逃げ切るなどなんともやんちゃな女神ではないかと呆気にとられた俺に、彼女はまたいつものまの抜けた笑みを浮かべるのだった。
「今日は天気も良いし、ロドリオ村の農作業のお手伝いにでもって思ったんだー」
「…なまえは村の手伝いをしているのか?」
まさか女神が、と思ったのだが予想に反してなまえはすました顔で頷き、おじいちゃんおばあちゃんが優しいんだと答えた。
万一のことがあったらどうするつもりなのか。
女神を第一に守るべきものと考えているアイオロスやサガが聞いたらどうなることやらと頭をかいた俺の目の前で、なまえは子牛に抱き着いたまま、またあの気の抜ける柔らかな笑みを浮かべるのだった。
「ねえ、アルデバランさえ良ければ、私も牛の世話の仕方を教えてもらってもいい?」
おじいちゃんやおばあちゃんが少しでも楽になるようにと笑ったなまえに、結局俺もその願いを断れきれずに受けた。
(サガたちに怒られるときは俺も一緒だろうか)
(だがそれでも構わないと何故だか思えた)
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