「あれ、アルデバラン?」

アルトの落ち着いた声は最近聖域にやってきた女神のものだったと思う。振り返った先で子供たちに囲まれながら不思議そうな顔をしてこちらを見ていたのは予想通り彼女で、軽く会釈をすれば彼女も笑って会釈した。

「ニケ、いや、なまえ。こんなところで会うとは奇遇だな」
「本当に。何をしているの?」
「ロドリオ村の牛の世話をしている」

そう言って放牧された牛たちをさせば、なまえは子供たちと一緒に駆け寄ってきた。

「触っても大丈夫?」
「ああ、問題ない」
「うわあ、初体験…!」
「ええー、なまえおねえちゃん、牛に触ったことないのー?」
「ださーい」
「えええ、牛に触ったことない女ってダサいんだ?」

きゃいきゃいとからかう子供たちの言葉にけらけらと笑いながら牛に近づいた女神が、突然駆けてきた子牛に頭突きされた。そのまま芝生に倒れこんだなまえを見て子供たちがげらげらと笑う。


「姉ちゃん、だっせー!」
「ううううるさーい!あんまり大人をからかうとねえ、…あれだよっ!」
「あれってなんだよ」
「あれはあれよ」
「あればっかり使っているやつって年増だよな」
「なー」
「と、し、まぁ…!?あんまり悪いことばかりいう子供たちはくすぐり十分の刑に決定!即執行!」

そう言って飛び掛かったなまえだったが、日本で平和に育ったという彼女がロドリオ村のわんぱくな子供を捕まえられるわけもなく全員に敢え無く逃げられた。
きゃあきゃあと笑いながら、また遊びに来てねと言った子供たちになまえも笑いながら今度悪いこと言ったら擽り10分の刑を本当に実行するからねと言って立ち上がる。

服についた葉をはらった彼女がようやくこちらを見ると苦笑を浮かべた。

「見事にやられたよ」
「子供たちにも牛にもな」
「なんだろうね、貫録がないから馬鹿にされるのかな?」

くすくすと笑いながらなまえは頭突きをしてきた子牛を捕まえて頭を撫でてやる。だが結局再度頭突きをされて再び地面に倒れこんだ。それどころか今度はぐりぐりと頭を押し付けられて、とうとう彼女が悲鳴をあげる。

「なにをするー!」
「…遊んでほしいのではないか?」
「えー、随分と乱暴なお誘いだなあ!」

そう言いながらも嬉しそうに子牛に抱き着いてそのままじゃれ始めたなまえに自然と笑みが浮かんだ。

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