「…ならばシオン様はそれで、聖域や人々にとって住みよい場所が作れると、そうお考えなのですか」
「まさか」
「では、」
「だからお前がいる」

突然のその言葉が理解できず固まればシオン様はふっと笑って目を伏せた。

「分からないか、サガ」
「…はい」

その問いに頷けば、シオン様は私を見てはっきりと言った。しんと静まり返った教皇の間に彼の声が朗々と響く。

「お前は誰よりも平等で人に信頼され、慕われている。お前は、教皇などにはならず、人を救うべきだった」
「…教皇としてでも、人を救うことはできました」


それは、サガの最後の悪あがきだった。罪を完全に認めるための、最後の、
それが分かっていたからこそシオンははっきりと、残酷ともとれる返答を返す。


「一握りの人間だ」
「……」
「お前は、教皇になるべきではない」

ぽろりと熱いものが頬を伝った。
悲しいわけでも悔しいわけでも後悔でもない。けれど溢れるそれに目を伏せた。後悔はしていない。けれど罪はある。そのきっかけになった13年前の教皇の決断について深く考えることを私はずっと恐れてきた。そして考えないように跳ね続けたその答えを、今ようやく全て受け入れることができる気がして、涙を拭うことなく流し続けた。シオン様はようやく表情を穏やかなものにして静かに呟く。

「私は、お前にはアイオロスの補佐として聖域を支えながら人のために生きて欲しかった」
「はい」
「やってくれるか」
「…私で良いのならば、喜んで」

笑った私にシオン様も笑う。そして椅子に腰かけると書類に手を伸ばして目を伏せた。

「女神に感謝しなければなるまい。もう一度機会をくれた」
「ええ、本当に」

女神に感謝、そうだ、シオン様は恐らくアテナ女神をさしているが、私にはもう一人、この機会を与えるために促してくれたなまえにも感謝を。そう思って笑みを浮かべた。

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