なまえに抱きしめられているということに気が付いたのはその直後で、彼女がそっと囁くように言った言葉に目を見開いた。

「私がいるよ」
「何を、」
「私が一緒にやる。一人より二人、でしょ?」
「……なまえ」

ずっと、正義の側で戦いたいと願っていた。アテナと対面し、彼女に負け、それでも我々を救うために自らの喉を突いたアテナの、全てを包むような愛を理解して自分の過ちと罪に気が付いた。

彼女は、女神だった。
私たちを理解し、愛し、そして救う女神だった。

そして再び女神に生を与えられ、正義の側で生きるよう望まれた日、勝利の女神さえもがこの聖域に帰ってきたことを知る。そして初めて彼女を見たとき、そのあまりにも情けのない神らしくない小宇宙や仕草に強い不安を覚えた。
だからこそ、目があったとき、彼女を見据えることができずに目を逸らした。


それは確かに13年前アテナに感じたものと同種の不安だった。

それから共に過ごしてみても、やはりなまえは女神という言葉には当てはまらないように思えた。人間らしく喜怒哀楽の感情を示し、デスマスクに悪戯をしたり貴鬼と子供のように燥いだり。勝利の女神はまるで女神らしくない存在だった。

そしてなまえは自分のことを神なのか、人なのか分からないと言った。それは、私も同じだ。彼女は神なのか、人なのか。それは未だに分からない。どれほど小宇宙が巨大になろうと、なまえはひどく人間らしい感情を有したままだ。

「私が一緒にやる」

そう彼女は言った。神と人が手を取り合うなど聞いたことがない。それならば彼女は人間だろうか。その姿がかつて人のみで人を救おうと足掻いた自分と重なり目を閉じた。

だがそれでも同時にそれはかつてひどく求めた神の救済のようにも思えた。神か、人か。どちらにせよ結局私は誰かに縋りたかったのかもしれない。ずっと、本当はあの13年間もアテナ女神にさえも縋りたかったのかもしれない。救いが欲しくて、これで正しいのだと誰かに私の正義を認めてもらいたくて、


「私は、許されるのか」


吐き出した言葉はまるで戯言のような語彙の塊だった。
それでもなまえはまるでそんなことなど気にならないかのように、ふっと笑みを浮かべて口を開いた。

「私は、貴方を許す。ニケとしても、なまえとしても、だってねえ、サガ」

私を見下ろして笑ったなまえを見上げた。


「貴方が努力したことを、私たちはよく知っているから」

強い雨が、私たちを打ち付けていた。


(そう言って笑った彼女は確かに)
(この時の私には女神のように見えた)

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