「……、」


ふと、ひどく懐かしい夢を見た気がして目が覚めた。

知らない女の人と男の人が仲良く道を歩いている夢だったと思う。金色の実を実らせた夕暮れの小麦畑のような場所をずっとずっと二人で笑いあいながら歩いている夢。何を話しているのかもよく分からない。けれどとにかく幸せで、なんだかふわふわとした感覚だった。それに、あの金髪のひどく美しい女の人と男の人は、どこかで見たことがある、ような…いや、それはないと思うがとにかくどこか懐かしさを感じさせる夢だったのは確かだ。

「…?」

変な夢だったな。今は何時だろう。もう明け方だろうか?
締め切っているせいで、真っ暗な部屋の中では今が何時ごろかもよく分からない。目覚まし時計に手を伸ばしライトをつけて時間を確認すると、一時を少し回ったころだった。まだ真夜中じゃないかと考えて、何故こんな時間に目が覚めたのか少し不思議になる。寝つきは良いほうだ。夢はよく見るが夜中に目が覚めることなど本当に滅多にない。

「………」

だが、考えても分からなそうだったので諦めて布団にもぐり直す



…が、まったく眠ることができずに結局仕方なく寝台から出た。さて、どうするかと靴を履きながら思案した。こんな時間に起きてもすることなど何もない。けれど眠れない。締め切られた窓の向こうでは地面をたたく雨の音が響いているだけで、それ以外の音は何も聞こえないし、こんな時間だ。きっとみんな寝静まっているころだろう。

本当、なんで目がさめちゃったんだろうか。
小さく息をついて、頭をかいた。

少し、歩いてこようか。
きっと昨日は運動が足りなかったから眠くないんだな、それか眠る前に飲んだコーヒーがいけなかったのだと一人納得して上着を羽織る。どこに行こうか?雨が降っているから、教皇宮から出るのは少し面倒だ。それなら宮内をぐるりと回って、それから部屋に戻ろう。

扉をくぐって外に出る。
しんと静まり返った暗闇が遠くまで続いていて少しだけ気味が悪い。明りがほしいところだが、生憎そんなものは持ち得ていない。今度日本に戻ったら懐中電灯でも持ってこようと考えて足を踏み出した。ひんやりとした空気が頬を撫でてぶるりと震える。

ああ、寒い。やっぱりおとなしく眠っていればよかったかも。

けれど、昼と夜では教皇宮の中はだいぶ景観が変わる。それがどことなく面白くもあり取りあえず先に進むことにした。


やがてピチャンと天井のどこかから雨漏りでもしているのだろうか、水音を聞いて足を止めた。
いや、水の音もするがそれよりも、同時に微かに聞こえる小さく呻くような、慟哭するような、この声は


「……サガ?」


呟いて、そんな馬鹿なと思う。こんな時間に彼が教皇宮にいるはずがない。もうみんな十二宮のそれぞれの場所に帰っているはずだ。耳を澄ませてももう声は聞こえない。だが、小宇宙を辿れば彼がすぐ近くにいることが容易に分かった。

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