どうだろうか。

それがその質問に対して一番初めに頭に浮かんだ言葉だった。そうありたいとは思う。

俗世から切り離されたようなこの場所はひどく不便だが、それでも美しいものも優しい人もたくさんいる。外の世界ではもう見られないようなものだってたくさんある。ここは無くすべきではない場所だ。そして何よりここに住む人たちが私は好きだった。さりげない気遣いや、優しさが嬉しかった。騒がしい毎日が楽しかった。

だから、それを守るための女神とやらに自分がなれるのなら、ぜひなりたいと思う。


けど、自覚があるかと言われると答えに詰まる。守りたいと思う理由はひどく個人的なもので、私の考える神とは釣り合わないように感じた。
同時に私はただ沙織にそう言われただけで、何か自分が女神であるということを強く感じたことなどない。

今の私はここに来る前と違い小宇宙をなんとなくだが理解した。離れた場所の人を探すことも容易だということも、おそらく一般の人間とは一線を引くものであるはずだ。だが、それも自覚とは違う気がする。


「…えっと」

わからない、というのが正直なところだろうか。
黙り込んだ私に、サガが少し困ったような顔で口を開いた。

「すまない、余計なことを聞いた」
「…ううん、私こそごめんね。その…、正直言うとまだよく分からないんだ」
「分からない?」
「うん、女神と人と…ええと、なんて言うのかな。そう、神と人の何が違うか、とかよく分からないから、まだ私には自分が勝利の女神かっていう答えが出せないし、…ごめん、よく分からなくなってきちゃった」

そう言って頬をかいてサガを見上げた。とりあえず私が女神としても人間としても考えがあやふやで情けないということだけは分かり、少しだけ気まずい。

「いいや、十分だ。ありがとう、なまえ」

けれど私の中途半端な答えにもふわりと微笑んだサガに、少しだけ申し訳なく思い謝罪を述べようとした瞬間、雑兵さんが三人こちらに駆けよってきた。ばたばたとこちらに駆けよってきた彼らは背筋をぴしりと伸ばして私とサガに挨拶を述べた後に書状をサガに差し出す。

サガは差し出されたそれを不思議そうな顔をしながら受け取る。

「…私に?」
「教皇様がお呼びです。双子座のサガ様、至急教皇の間へ」
「ああ、分かった。それでは、なまえ」

こちらを振り返ったサガに頷いて手を振れば、彼は一礼をしてその場を駆け出した。残った雑兵さんたちに任務か何かと聞いてみたが、彼らは分からないと一様に首を傾げるだけだった。

「しかし、何か重大な話し合いがあるのだと思います。アテナと、アイオロス様もおりましたから」
「次期教皇を決めるのかも、」
「次期教皇?」

教皇ならもうシオンがいるじゃないかと言った私に、雑兵の一人が慌てて教皇を決めると言った人の頭を叩いた。

「おい、勝手なことを言うな!」
「あ、失礼しました!お忘れください、ニケ」
「…分かりました、ありがとうございます」

なんだかよく分からなかったが、それ以上聞かないでくれという彼らの視線を感じて話を切り上げた。部屋まで護衛するという彼らを丁重に断り私も教皇宮へ駆け戻る。先ほどまで真っ赤だった夕焼けは、もうすっかり闇に飲まれてしまっていた。

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