赤ワインをこぼしたかのような夕焼けをがふと、目に入った。

地平線の果てに沈みかけている太陽に雲がかかって、ひどく美しいその景色をもっとちゃんと見たくて教皇宮を出た。階段のところでは移動する女官さんたちの邪魔になるだろうと崖になっているところに歩いて行ってちょうどいい大きさの岩に腰かける。

それとともに、背後に気配を感じて振り返る。
歩み寄ってきていたのはサガで、私が振り返ったことにわずかに驚いた表情を浮かべた後にほほ笑んだ。

「小宇宙の使い方はもう問題ないようだ」
「まだ曖昧だけれど」

そう言って苦笑すれば、サガは笑みを崩さずに私の横に立った。そうして先ほどまでの私と同じように地平線を眺めて目を細める。

「相変わらず、ここからの景色は美しいな」
「ね、綺麗だよね」

夕日と、それに星空も美しいのだと言えば彼は微笑み、頷いて夕焼けを眺めた続けた。そんな彼の髪や顔を夕焼けが紅に染める。
美形で羨ましい、なんて考えたあと私も夕焼けに視線を戻した。しばらく二人でそうしているとやがて彼がこちらを見て、聖域の生活にも慣れたかと言った。それに頷けば、彼も満足げに頷いてそれから目を伏せた。


「アテナとどこで出会ったのか聞いても?」
「もちろん。大した話じゃないけど…、仕事が終わって家に帰ったら沙織がいたの。いや、本当に急だったよ。連絡すらなかったからね」
「そうか、なんともあの方らしい」

くすくすと笑ったサガが、何かに納得するかのように頷いて私に先を促した。

「それで、急に貴女が勝利の女神ですって言われて」
「そうか」
「色々あって聖域に来たんだ」

そう言ったサガが黙り込んだ。その様子がどこか、何かを思案するようなものだったから、とりあえず黙って彼の様子を窺っているうちに、やがてサガは言い出しづらそうに呟いた。

「失礼かもしれないが、」
「うん?」
「なまえは、自身が女神だという自覚を持っているのだろうか」
「………」

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