「ん」

ふいに陰ったと思って目を開けたら、自分を覗き込む貴鬼と目があった。つぶれた草の香りを嗅ぎながら彼の頭に手を伸ばす。

「貴鬼、どうしたの?」

ぷにぷにの頬に手を添えて微笑みかければ、貴鬼は目をぱちりとして首をかしげた。

「なまえお姉ちゃんこそ、こんな場所でどうしたんだい?風邪ひいちゃうよ」
「天気が良いから日向ぼっこしながらシエスタ!」

笑いながら言った私に貴鬼は首を傾げたまま「部屋で寝たほうが良い」と言う。そんな彼に笑いかけて手を引いた。

「貴鬼、ちょっと横になってごらん」
「なんで?」
「良いから、…あ、もし服が汚れるのが嫌なら私のお腹の上でも良いよ」
「おっ、女の人に乗るなんてできないよ!」
「…その可愛さは反則だよ、貴鬼…!」

顔を真っ赤にさせてわたわたと慌てながら言った貴鬼の手を引いた。「えーい」なんて言えば、貴鬼は「わっ」と可愛い声を上げて私の上に乗る。そのまますぐに仰向けになってもらって空を見上げてもらった。

「うわあっ」
「綺麗でしょ?」

木漏れ日がきらりきらりと零れて、新緑の隙間から覗く青空がひどく心地いい場所なのだと言えば貴鬼も綺麗だと言って笑った。

「お気に入りの場所なんだ、貴鬼にだけ教えてあげるね」
「おいらだけ?」
「貴鬼だけ!」

そう言えばぱっと笑った貴鬼が可愛くてぎゅうぎゅうと抱きしめる。ふにふにしていて、何この生き物…!!

「貴鬼って実は天使だったり?」
「しないよ!おいらはムウ様の一番弟子のアッペンデックスさ!」

ぎゅうぎゅう抱きしめる私にきゃあきゃあと言いながら笑う貴鬼が首を振る。そんな仕草さえ可愛い。いいなあ、ムウ…。こんな可愛い子と生活できるなんて羨ましいじゃないか。

「はぁー、貴鬼温かいねー」
「なまえお姉ちゃんも温かいよ」
「なんか眠くなってきちゃった」
「おいらも」

ちょっと寝ちゃおっかと言えば、貴鬼も頷いてぱたりと両手を広げて目を閉じた。私は彼のお腹のうえで手を組んで目を閉じる。草の香り、お日様の香り、それから暖かい貴鬼と太陽の光。それがひどく心地よくて私はすぐにうとうととした微睡に落ちた。


(おや、シオン、…あれは貴鬼となまえではないですか?)
(あんなところで眠って風邪をひいたらどうするつもりなのか)
(ですが、ひどく気持ちよさそうに眠っていますし起こすのも可哀相ですね)
(マントでもかけておいてやれ)
(ええ)

4/5