ぽかぽかと浮かぶ白い煙を眺めながら紅茶の香りを楽しんだ。うん、上手な人が淹れると香りからして違う。
「どうぞ」
「ありがとう」
手渡された紅茶を、礼を言って受け取る。それに微笑んで目の前に座った彼が言った。

「それで貴女が勝利の女神なわけですね?」
「それで貴方がさん、えーと、さん…巨峰?のお一人ですか」
「三巨頭です。巨峰は葡萄ですよ」
「あっ、そっか」

なまえちゃんたらついうっかり!てへぺろとやったらミーノスと名乗った男性は爽やかな笑顔で「キショいですね」と言った。せめてオブラートに包んでくれ!まるでナメクジのようですねとか…ってそれも気持ち悪いな。ていうかナメクジ扱いされるのはさすがに傷つくわー…。そんなことを考えながら紅茶に口をつける。サガは今、ラダマンティスと名乗った男性とよく分からない仕事の話で奥に行ってしまった。

「…うわあ、紅茶いれるの上手だね、ミーノス!すごく美味しいよ!」
「それはどうもありがとうございます、隠し味が聞いていますか?」
「隠し味?紅茶に?」
「ええ、試しに貴女のカップにだけ、ルネに準備させた化粧水というものを入れてみたんです。お肌がつるつるになるそうですねえ」
「それ嫌がらせって言うんだよ!!どうしてくれるの、飲んじゃったよ!!」

そもそも化粧水は飲むものではないと叫べば、ミーノスはいけしゃあしゃあと知っていますと答えた。ちくしょう、この男…!!

「ところでミーノスはこんなところでお茶を飲んでいても良いの?」
「貴女こそこんなところで油を売っていても良いのですか?」
「私は良いの!サガを待っているだけだから」
「そうですか、奇遇ですね、私も良いんですよ。デスクワークは全てラダマンティスに押し付けていますから」
「…いや…、働こうよ…」
「…こんな諺を知っていますか、なまえ」

ふと表情を引き締めたミーノスが人差し指をぴっと立てた。一体なんの諺をいうのだろうかと黙り込んだ私に、彼はにやりと笑みを浮かべてはっきりと言った。

「能ある鷹は仕事をしない」
「そんな諺ないから」
「仕事は遊び、遊びが仕事」
「そんな諺ないから」
「二度仕事あれば三日の休憩」
「そんな諺ないから」
「なかなか博識ですね」
「そういう問題?意味わからないよ」

けらけらと笑いながら言った私にミーノスも笑って、さらに続けた。
「まあ、類は友を呼ぶと言いますからね」
「ちょっと、それどういう意味?」
「サボり組は二人でのんびりお茶でも飲みましょうという意味ですよ」
「…私は化粧水入り紅茶をね」


くすくすと笑いながらそう言えば、ミーノスもやっぱり笑ってそして言った。

「お望みでしたら、ボディクリームとやらも準備させますよ」
「ねえミーノス、こんな言葉を知っている?」
「なんです?」
「有難迷惑ってね」

目をぱちりとしたミーノスが、すぐになるほどと言って笑った。いつの間にかその手に握られた化粧水が容赦なくどばどばと私の紅茶に注がれていくのを眺めながら、どうやってこれを飲むのを断ろうかと思案した。

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