青空を白い雲が流れて行った。咲き誇った花が風に揺られるのをぼんやりと眺めていた双子がぽつりと呟く。
「勝利の女神が冥界を訪れると」
「…勝利の女神?ああ、あの黄金の棒か」

アテナがハーデス様にそれを献上でもしたかと笑いながら盃を傾ければヒュプノスは琴の弦をひと撫でして首を振った。

「女神自身が訪れる」
「…神話の時代以来あの女神の姿を見た覚えはないが?」

最後に見たのは確か、遥か昔、神話の時代の聖戦の始まりだったはず。それが何故今更と双子に視線をやれば、ヒュプノスは目を伏せたままぽつりと言った。

「アテナと同じように現世に降臨していたらしい」
「はっ、おとなしくオリンポスに引きこもっていれば良いものを、相変わらず物好きな奴らよ」
「…真意など知らぬ。だが、その女神がすぐに冥界へ訪れるというのだ。ハーデス様が招いたらしいが…」

そう言ってヒュプノスが立ち上がり、琴を近くのニンフに預ける。ちらりとこちらを見たヒュプノスが笑った。

「さてそろそろ時も頃合い」
「…行くつもりか?お前もとんだ物好きだな」
「お前は行かないのか?」
「………」

ゆっくりと立ち上がった俺に、隣でハープを奏でていたニンフが顔を上げて「どちらまで?」と問うてくる。所用だと告げた俺にニンフは美しい笑みを浮かべて見送りをしようと立ち上がる。それを手で制してさっさと歩き始めていた双子を追った。


(目的地は知れている。)

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