アテナが仕事だと言って告げた内容になまえが悲鳴をあげて首を横に振った。


「冥界って地獄でしょ!?三途の川があって、その向こうに花畑が広がっていて親しかった人が手を振っているってやつ!」
「…実際は少し、違いますね」
「どんな風に!」

至る所で嘆きの声が聞こえる、とんでもなく陰気くさい場所だと爽やかな笑みを浮かべて言ったアテナになまえが顔を真っ青にして首を横に振りまくる。

「それただの地獄だよ!」
「ええ、地獄です」
「地獄に行けって言うの!?」
「なまえ、お仕事だと思って」
「うっ」
「サガもともに行きますから安心してください。何かあったときは彼を頼るように」

地獄行は決定事項なんだと涙目で呟いたなまえにアテナがにっこりと笑って頷いた。それを見た彼女はもう何を言っても無意味と悟ったのか、幾分げっそりとした顔で「女神としてやらなきゃいけないならやるよ」と投げやりに答えた。そんななまえと目が合い頭を下げられる。

「サガ…、ふつつかものですがよろしくお願いします」
「なまえ、それは意味が違ってくるのでは…」
「いや本当、地獄でしょ?地獄なんだよね?想像しただけで怖いよ。途中でぶっ倒れたりしたらごめんね!」
先に謝っておくわと言ったなまえに苦笑する。なるほど確かに冥界で倒れられたら少し困る。それを聞いていたアテナもくすくすと笑いなまえを見た。

「大丈夫です、冥王との謁見が済んだらすぐに戻ることができますから」
「冥王…、閻魔様的な?」
「ええ、そうです」

きっぱりとそう答えたアテナになまえが頭を抱えて地面に倒れこんだ。本当にいつもいつも元気な子だと彼女を見下ろせば、涙目でアテナを見たなまえが叫ぶ。

「私舌切られるって!結構嘘ついたことあるよ!!」
「へえ、例えばどんな?」
「小さいころに、肥やしをウサギの糞だよって言って弟に投げたり」
「………」
「日本の中国地方は中国本土のことなんだよって言ってみたり、メンマは割り箸を煮たものだよって留学生に教えたり」
「………その、…ちょっと舌を切って頂いてきたらどうです?」
「やだよっ!なんてこと言うの、沙織!!」

怖いよと叫びながら身を抱いたなまえに、アテナがくすくすと笑った後に私を見る。澄んだ強い瞳と目があった瞬間女神がほほ笑んだ。

「なまえを頼みます、サガ」
「御意」
「何かありましたら、すぐに私に連絡を。今勝利の女神を失うわけにはいきません」

まだ地面に倒れこんだまま何かよく分からないことを言い続けているなまえをちらりと見たアテナが苦笑を浮かべてそう言った。

それに私も苦笑を返してなまえの手を取る。

今日はこれから冥界を訪れ冥王に謁見するなまえの護衛だ。まさかこの後に及んで冥界が聖域側の派遣した、それも勝利の女神たるこの女性に危害を加えるとは思えないが何があるかは分からない。気の抜けない一日になりそうだと考えて小さく息をついた。

まだまだ、日は昇ったばかりだ。

1/2