そうして、太陽が天上に君臨するころ祭典が始まる。
神官や巫女たちの祝詞を聞く間、私たち黄金はアテナとニケ、そして教皇の前に長い間立ち続ける。私は苦ではないのだが、いかんせんデスマスクには退屈でならないらしい。さりげなくシュラにちょっかいを出して、鋭い視線で睨まれていたことを私は見逃さなかった。恐らく、それはアフロディーテも同じだったようで、神官たちに気付かれぬようにくすりと笑う。

そうこうしているうちに、奉納の演武が始まった。巫女たちの舞が始まると着飾ったなまえがほほ笑みを浮かべて立ち上がる。

だがその微笑みがぴくりとも動かない硬いものだったから、なまえの緊張が手に取るようにわかってついわずかにほほ笑んでしまい、あわてて表情を引き締めた。そうこうしている間に、彼女の舞は始まっていて、動くたびに頭に付けられた神飾りがシャンシャンと鳴り響き、その場の空気に染み渡った。

無事に、デスマスクに教えられたとおりに踊りきった彼女は、毅然とした笑みを浮かべたまま元の場所に戻る。デスマスクは彼女が一つもミスをしなかったことに満足げに笑みを浮かべていた。

そうして久方ぶりにアテナとニケがそろって行われた祭典は、一つのミスも起こることなく滞りなく無事に終了したのだった。




「緊張で心臓止まって死ぬかと思った」
「よく出来ていた」
「ありがとう、サガ」

祭典後、結局なぜか流れで宴会になり、その席で椅子に座りこんで動かないなまえがそういって笑った。(彼女曰く、筋肉痛で動けたものではないらしい)

「…そういえば、ひどく小宇宙が安定するようになったのだな」
「え?ああ…、うん、なんだかようやく小宇宙が何なのかわかるようになった気がするよ」
「それは良かった」
「うん、でも、次は使い方を覚えなくちゃ」
「小宇宙で私に意思の疎通ができたのだから、すぐ覚えられるだろう」

そういえば、彼女はにっこりと笑ってうなづいた。「頑張るよ、でもとりあえず今はあれだね、寝たい」「昨日よく眠っていたではないか」「でもその分今朝は日が昇る前にたたき起こされたんだよー!」そういった彼女に明日はゆっくり休めばいいと告げれば絶対にそうすると息巻いて立ち上がった。筋肉痛に一瞬顔をしかめた彼女だったが、すぐに笑みを浮かべて口を開く。

「デッちゃんにお礼言ってくるね。いっぱい練習付き合ってくれたから」
「ああ、そうすると良い」
「サガも、ありがとうね!」
「?」

一体何の礼かと問おうとする前に、彼女はデスマスクのほうへかけて行ってしまった。後ろから飛びつこうとしたが、事前にデスマスクに察知されて酒を頭からかぶせられているなまえを眺めて苦笑した。本当に、人間のような女神だ。(だが昨日やこの間の爆発的な小宇宙は人に出せるものではなかった)


「………」

喧騒の中に響く彼女の悲鳴とデスマスクのどなり声を聞きながら、酒を片手にこちらに向かって歩いてくるアイオロスに気が付き、ニケという女神の思考に一度きりをつけた。

(犯人の情報は、いまだ入ってくることはない)

5/5