懐かしい、と感じた。
じわりと胸が熱くなる。

私はここに来たことがないはずなのに、私はこれを知っているという違和感、そして矛盾。

「、これは」

一体なんなのだろうかと手を伸ばす。そうして、そのネックレスに指先が触れた瞬間、頭がひどく痛んだ。体が熱い。

「…はっ」

体の中で躍動感を感じる。
脈を通じて全身にいきわたったそれに、神経が研ぎ澄まされていく。視覚聴覚触覚など五感が研ぎ澄まされて、そうしているうちに、聖域の状況が手に取るようにわかるということに気が付く。この神殿の向こうの建物に巫女たちの存在、そしてそのすぐそばにいる暖かくて大きな存在がサガ、少し離れた十二宮にも黄金聖闘士がいるのがわかる。


それからもっと高いところ、おそらくアテナ神殿にある強大で、それでも安らぎにみちたそれが、沙織だ。

「あっ、」

どくりと心臓が強く波打った気がして胸を押さえてしゃがみこむ。

熱い、


「はあっ」


体が、あつい



サガ、助けて、


なぜ彼に助けを求めたのかわからない。けれど、一番に浮かんだのがあの優しい人で、その理由を知るより早く私の意識は途切れた。



「…なまえ?」

立ち止まり振り返った。強い風が吹き抜けて前髪がばさばさと揺れる。教皇宮で任務の報告をしてきた帰りのことだった。空では星が輝き大きく冷たい光をともした月が聖域を見下ろしている。その下でもう一度彼女の名前をつぶやけば、ともにいたデスマスクが足を止めて私を見る。

「ああ?」
「なまえが私を呼んだ」

何も聞こえなかったぞと片眉をあげたデスマスクに小宇宙だと告げれば、彼は表情を大きく崩して私を見る。「あいつ、絶望的なくらい小宇宙を使うことができなかっただろう」「だが、確かに感じた」「……」確固たる意志で、確かに私は聞いたのだといえば、デスマスクは口元に手を当てて考え込んだ。だが、もはやそれに構っている時間はない。彼女が私に助けを求めているのに躊躇する必要はない。地面を蹴り上げ走り出した瞬間、いつか、彼女がここにきて僅かの時に感じたのとほぼ同じ爆発的な小宇宙を感じて一瞬足が竦んだ。

「!、これは…!」
「小宇宙!?でかいぞ、」
「なまえのものだ!」
「ああっ?おい、サガ!これはニケ神殿からだ!あの場所に無許可の立ち入りはできねえ、分かっているだろ!!」

あの日感じたものとは少し感じが違う気もしなくはないが、これは確かに一か月をともに過ごした彼女の小宇宙であるということは疑う余地もない。だが、急激に高まった小宇宙の意味が理解できず、デスマスクの言葉など聞かずにただ足を走らせた。


(何かよくないことが起きているのだろうと感じたから)

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