「うーん…」

だが、奥に行けばいくほど暗くなる神殿に、やはり窓などないのかとあきらめてため息をつきかけたとき壁に顔面から直撃した。暗すぎて見えなかったとはいえ、なんて間抜けなんだと打ち付けた額を押さえて立ち上がる。そうして今度こそ深いため息をついて壁に寄り掛かった瞬間


壁が動いた。

「えっ?うあっ、ひゃあ!!」


訳も分からぬうちに倒れこんだせいで変な声が出た。でも私のせいじゃない!壁が急に動いたら、誰だって驚くはずだ。だが結局、壁とこんにちはした直後だというのに地面と熱い抱擁を交わす羽目になり、冷たい石畳にキスをする。畜生随分とひどいことをしてくれるじゃないか忍者屋敷かと生理的に浮かんだ涙をこらえて顔を上げる。

「…!」


そこは青白い空間が広がっていた。

月明かりが冴え冴えとした光で白い神殿内を青く照らしているせいか、作り上げられた真っ青の幻想的な空間。一瞬、その美しさに見とれていると、すぐに殺風景な部屋の中央に何かが落ちていることに気が付く。

のろのろと起き上がり、そこに歩み寄って気が付いたのはそれが小さな小箱だということで。私はそれがよく分からないまま手に取った。小さな、おそらく青銅か何かで作られた小箱。これはなんだろう。ひどく細かい装飾が施されていておそらく高いものだということしか分からない。開けようと蓋に手を伸ばして、やはり躊躇する。

玉手箱だったらどうしよう?一気におばあさんになっちゃったりして。いや、でもあれは日本の話でギリシアに玉手箱がある意味が分からない。けれど、これを勝手に開けるのも気が引ける…。


それでもやはり、湧き上がってくる興味には勝てず蓋に手をかけた。

「あれ?」

鍵がかかっている。それに気づいたとき少しだけ残念に感じたが、すぐに自分が大切なものを勝手に開いてしまうところだったのではないかと考え直してあわてて箱を床に置きなおした。

開かなくてよかった。
もし開いたりしてはいけないものだったら大変なことになったものと息をついた瞬間、箱の蓋がなぜか開いた。勝手に開いた。いったいなんの心霊現象だとあがりそうになった悲鳴を必死にこらえて後ずさる。私の想像ではそれはもう悍ましい何かが箱から飛び出してくる予定だったのだが、それは見事に、そして実にありがたいことに外れてくれた。

箱からは、何も飛び出してはこない。
代わりに、月明かりに照らされて何かがきらりと光った。

「なに…?」


きらきらとしたそれを覗き込む。

「…あ…」


それは、透き通る青い宝石の散りばめられたネックレスだった。それが、月明かりに照らされてきらりきらりと光る。ひどく綺麗だったのは間違いないが、それ以上に感じた違和感。
それは、既視感だ。

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