「うわっ」
ぽいっと石畳の床に投げられる。満身創痍なのだからもう少し優しく扱ってもらいたいものだと思いながら、なんとか上半身を起こせば、兵士たちがへらへらと笑った。「そもそも黒髪に黒い目という時点で気持ちが悪いんだよ」「魔女」「そこでしばらくじっとしてな」などと口々に言った彼らが扉を閉める。とたんに私のいる部屋は真っ暗になり、遥か高いところについている窓からかすかな月明かりがもれるだけになってしまった。
兵士さんたちがいなくなったころにここから出ようと考えた瞬間、がしゃんとなにやら今の私には非常に不吉な音が聞こえてあわてて扉に近づく。
「…だめだ」
予想通り、向こうから扉を閉められてしまったらしく押しても引いてもびくともしない。
「……」
ひどく疲れた気がしてしゃがみこむ。全身が痛いし、頬がひどく熱を持っている。これは早く冷やさないと、明日の予行で沙織になんと言われるか分からない。
…明日?そもそも私は明日までにここから出してもらえるのだろうか?…ううん、これは実に困ったことになったと体の痛みをこらえてなんとか立ち上がって上を見上げる。あの小窓はひどく高い場所にあるし、大きさも小さい。とてもあそこから逃げ出せるとは思えない。
なら、早いうちに逃げ場を探さなきゃとのろのろと神殿の中を歩き始める。
しんと静まり返った神殿に私の靴音だけが響く。
暗闇に飲み込まれていく靴音を聞きながら、ただ奥へ奥へと進んだ。
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