どうやら大きく誤解をしてしまったらしい巫女さんが表情を変えて私の髪を思い切り引っ張った。
勢いのまま地面に倒れこめば靴で顔を踏まれる背中をけられる。ああまったく踏んだり蹴ったりってこのことか?なんてちょっと違うことを考えられるほど妙に冷静な頭が恨めしかった。パニックになってしまえば、痛みになど構っていられないのだろうが、冷静に現状を把握してしまう今の状況では痛くてかなわない。
彼女の後ろに控える兵士さんたちがにやにやと笑うのが見えた。
「お前みたいなペテン師が明後日の祭典に出るなんて認めない!!」
神聖な祭りなんだと声を荒げた彼女の綺麗な翡翠色の目と視線が絡んだ。肩で息をする彼女がまた大きく眉を潜めて私の肩を蹴る。
「…なんとか言ったらどうなのよ。大した小宇宙も持たない、ただの下賤なアジア人!ひょっとして恐怖で声の出し方も忘れちゃったの?」
「祭典には出る」
それが、ここで生きることを決めた私に与えられた仕事なのだから。絶対にやめることだけはしないといえば、彼女の眉が吊り上って、鳩尾を蹴り上げられる。
ああくそ、ナイスヒットなんて考える暇もなく込み上げてきた吐き気を必死でこらえる。彼女はそれでいささか満足をしたのか後ろに控えていた兵士さんたちに連れて行けと命令をする。
うん、どこに連れて行かれるのかくらいは教えてほしいと思ったとき、巫女さんがしゃがみこんで私の顔を覗き込んできた。
「喜びなさいよ、性懲りもなく勝利の女神を語るから彼女の神殿に連れて行ってあげる」
「女神の神殿、」
「神話の時代にニケ女神が立ち入りを禁じた神殿。そしてその命令はまだ解かれていない。つまりね、誰もあの神殿には立ち入らない、助けに来ない、そういうことよ」
そこに連れて行ってあげる。もちろん私たちは入らないけれど、あんたはそこで頭を冷やすことねとそういって笑った巫女さんの声を聞きながら、ひどく痛む体に瞼を閉じた。
(なんだかとても眠たかった)
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