巫女さんはなおもぎゃあぎゃあと騒いでいたが、それでも私まで騒ぎ出したらもう収集がつかなくなってしまう。そう考えて、努めて冷静に対応しようとしたのが間違えていたのだろうか。

「なんであんたなんかが勝利の女神の座にいるのよ!!」
「それは私も不思議だけど…、いや本当に」
「あんた、女神や聖闘士に何か粗相していないでしょうね!!」
「たぶん…」
「なれなれしくアテナを人名で呼ぶなんて馬鹿じゃないの!?彼女がどれだけ崇高な神かわかっている!!?」
「それなりには理解しているつもりよ」

だがその冷静さが逆に巫女さんの逆鱗に触れてしまったらしい。美しい顔にものすごく恐ろしい形相を浮かべて頬をはたかれた。乾いた音と巫女さんの荒い息が響く。「なんで、あんたなの」「…ごめんね」胸倉から離れた手を確認してから胸元にできた皺をただす。そうして睨み付けてくる巫女さんを正面から見つめて、ああやっぱり綺麗な子なのにと考えていると彼女が嘲るような笑みを浮かべて口を開いた。

「なにを謝るの?認めるつもり?」

聖域を騙していることを。

「まさか」

そもそもここには確かに私の意思で来たが誘ったのは沙織だ。そしてその沙織は私のような一般人とはまったくご縁の無いような木戸財閥の総帥。そしてアテナという女神、だ。まさか私みたいなしがない一般人に騙すような真似ができるはずがない。(というより普通ならまず出会うことすらできないのだろうから)

「私をここに呼んでくれたのは、沙織なの」
「まだそんなウソを…!!息を吐くようにウソをつく女ね!!汚らわしい奴!!!」

もう一度ぱしんという音が響いて頬がじんと痛む。

「私はね、貴女たちの言うこともよく理解できる。ずっと信仰してきたものが、私みたいなぽっとでの普通の人間だったと分かったとき、ひどくショックを受けたっていうことも。だから私のことが目障りなのもわかるし、疑われるのもわかる。でもね、」


私は自分の意思でここに留まることを決めた。
まだ小さいのに懸命に頑張っている沙織を、できるのなら支えてあげたいと思った。彼女の友人になりたいと思った。そうしたことの延長線上に地上の平和という御大層なものがあるというのなら万々歳だ。世界平和など、スケールが大きすぎて私にはいまいち理解しにくいが、それでも目の届く範囲だけでも平和で楽しく仲良く過ごせる生活を守れるのならそれは素晴らしいことじゃないか。(おそらく、そうすることによって平和の輪も広がらせることができるのではないだろうか)

それなら私は勝利の女神でいたい。
まだ日は浅いが聖域で過ごして、たくさんの人とかかわった。
沙織、サガ、デッちゃん、それから聖闘士のみんなや女官さんや兵士さんたち。そうした人たちを守り、安心させることができるのなら、私は勝利の女神になりたい。

「私は、勝利の女神になる」

けれど、そのなるという表現がいけなかったらしい。

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