「大変お待たせいたしましたあああああああ!!!」

そうしてたどり着いた競技場。

ずさああああっとプロ野球選手もびっくりなスライディング、さらに土下座ポーズで派手なゴールを決めてみたのだが、生憎誰からの歓声も反応も帰ってこなかった。ついでにジャージの膝の部分が摩擦熱で溶けてすり減った。ちょっと穴まで開いている。なんてこったい。


「…なまえ?」

ふいに、しんとした、時折風の音が聞こえるだけの競技場で聞きなれた低い声が、呆気にとられた調子で私の名前を呼ぶ。土下座ポーズのまま顔をあげれば、想像通り驚きを隠そうともしないで、呆然とした顔で私を見つめるサガが立っていた。

「あっ、サガ!おはよう、それから待たせてごめんなさい!本当申し訳ありませんでした!でも、火時計に逆さ吊りの刑とか千本の時計の針を飲ませる刑は遠慮したいなあ、なんて」
「い、いや、そんなことは考えていないが…大丈夫か?」

恐らくスライディング土下座のことを言っているのだろう。こんなことまで心配してくれるなんて、この人はどうしてこんなに優しいのだろう。

「大丈夫!!」
「そうか」
「ところでサガ、私ここまで一般人の中では最高記録で来られた気がする。たぶん私三回くらい風になっていたし」
「ああ、そんな日もあるだろう」
「ごめん、突っ込んでほしかったんだけど、聖闘士にはそんな日もあるんだ?」


ていうか風になる日ってどんな日だ。意味が分からない。
苦笑いを浮かべた私に、サガが不思議そうに首を傾げたからあわててなんでもないと告げて土下座の状態から立ち上がった。見上げれば、太陽がそろそろ真上に君臨するころだ。これから日暮れまで、今日も練習漬け。わざわざ私なんかに付き合ってくれるサガのためにも、よっしゃ頑張らなければ(すでに昨日の練習で全身筋肉痛だけれど)


「それでは、初めに一通りとおしてやることにしよう」


そういったサガに頷いて、競技場の中央に立った。


長い一日が始まる。
(まだ私はそれを知らない)

3/3