「…なにしているの?考える人の真似?」
「暇を極めた人間しかそんなことはしない」
「じゃあ瞑想とか」
「…見ていてやるっていうのが分からないのかよ」
「…!わかった!最後まで見て、最終的に馬鹿にしまくるつもりなんだ!?それで、あとで出会った人たちみんなとの笑い話の種にしようっていう魂胆。ふっふっふ、騙されないよ!」
「…あのなあ…」
「あれ、違かった?」

いつもいつも私をばかにして、ひょっとして敵視すらしているのではないかと思えるような彼だから、それくらいしか理由が思い浮かばなかったのだが、と言えばデッちゃんは顔をしかめて私を睨んでくる。

「お前は俺のことをなんだと思っているんだ」
「いじめっ子大将?」
「ようし、よおくわかった。そこから動くな、今すぐ冥界に送ってくれるわ」
「ようし、来なさい!華麗なるステップですべてよけてやるわ!!」

見よ、蟹さんステップ!と蟹のように左右にステップをしてみせれば、デッちゃんの表情が崩れて憐れむような目つきで私を見た。


「お前、一度病院に行ったほうが良いんじゃないか。精密検査を受けてこい、前頭葉に異常が見つかるはずだ」
「失礼だよそれ!!デッちゃんこそ、いつまでも私に構って!好きな子をいじめちゃう小学生男子の心理なんじゃない?自分に正直になったほうがいいと思いまーす!」
「誰がお前なんか!!」


いい加減にしやがれと拳骨をくらい、一瞬くらりとする。なんて情け容赦のない攻撃。

「…っひどい!」
「黙れ」
「冷たいわよ、デッちゃん!」
「良いから、早く踊れ!!」
「嫌よ、馬鹿にされるのが目に見えているわ!さっきみたいに、ラオコーン像とかムンクの叫びとかいうんでしょ!」
「ムンクとは言ってないだろうが!!」
「そんな感じの絶望感とか悲壮感は表せていると思うんだよ」
「祭典で絶望感と悲壮感を出す必要はないだろう、馬鹿女め」

心底あきれ返ったとばかりにため息をついたデッちゃんが頭を抱えた。けれど私だって頭を抱えたいのだ。どうしてこんな妙ちくりんな舞になってしまうんだろう?お手本を巫女さんが見せてくれた時はすごく綺麗だったんだけれど。


「踊れ」
「…どうして貴方の前で?」
「見てやるって言っているんだよ」
「え」
「何年聖域で生活していると思っているんだ。あの舞はもう何度も見た。…おい、なんだよ、その顔は」
「だ、って…」

さんざん私を馬鹿にしていた彼が、どうしてそんなことを言うのか理解できない。
それは当然のことではないのか。

それを感じ取ったらしいデッちゃんは頬肘をついたままそっぽを向いた。

「暇つぶしだ」
「うん、割とそんな理由かなって思ってはいたけどね」
「気が変わる前に早くしろ」
「……はいはい」


暴力は禁止ねと言った私に、お前が優秀だったらなと口端をあげて答えた彼に苦笑した。

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