「なんだよ、それ」
通りかかったデッちゃんが不意に足を止め、そういって顔をしかめた。
何だその顔失礼な!と思いながらも正直に「聖典の舞の練習」だと告げれば、彼の顔は一瞬素っ頓狂なものになったが、すぐににやにやと笑いだした。
「人生にもがき苦しむ底辺の図かと思ったぜ」
「舞だよ」
「いや、ラオコーンだな」
「舞ですよ」
「それかピエタ像のおっさんのほうだ」
「それ死んでいるじゃない!」
デッちゃんはともかくお前のそれはそのレベルだと鼻で笑った。まったく失礼な人だ。人生に苦しむ底辺の図…の意味がよくわからないが、もがいているラオコーン像にそっくりだというのならまだ妥協できる。言いたいことも分かる。だが最後のピエタ像のおっさんのほうって、死んでいるじゃないか。もはや舞のように動くものの例に出す対象ではない。
「誰に教わったんだよ?」
「沙織と巫女さんたち」
「で、なんて言っていた」
「苦笑いで練習あるのみですから頑張りましょうって言われた」
「呆れられているだろ、それ」
「うん、私もそう思うよ!」
「まあ、どうせ誰もお前にできるとは思っていないだろうがな」
「かっちーん」
今のは頭に来たぞとデッちゃんに飛び掛かる。見よ、この華麗なジャンプからの飛び掛かり!が、見事にさけられて大地と熱々の抱擁を交わす結果になった。なんてこったい。頭上からデッちゃんが鼻で笑ったのが聞こえた。
「お前、あほだろう」
「デッちゃんって本当に失礼だよね」
そんなに文句を言うのならいつまでもここに留まっていないでさっさと行けばいいじゃないと、起き上がり際にそう叫べば、彼が目を丸くした。
けれど、そんなことにかまってなどいられない。自分でも私の舞がなかなか悲惨だということは重々承知なのだ。無駄話をしている時間があるのなら練習をしたい。それも、けなされ続けなければいけないのなら、なおさら。
「なに、まだ何かあるの!」
けれど予想に反してデッちゃんはそこに居続けた。それどころか、競技場のすぐわきの崩れた観客席に座って頬肘をつく。
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