「祭典?」
「ええ、本来なら夏に行うはずだったのですが…、その、聖戦後、聖域も慌ただしくそれどころではありませんでした。何より、黄金聖闘士もいませんでしたから。ですから、時期を変えて来週行うことになったのです」
「ふうん…、じゃあすごく重要な祭典なんだね」

時期をずらしても必ず行うくらいだ、よほど聖域にとって大切なものなのだろうと言えば、沙織が笑って頷いた。後に、にやりとした笑みを浮かべる。

「もちろんなまえにも参加して頂きます」
「分かったよ、……え、…え?」

あまりにも自然に言われたので、頷いて答えてしまったが冷静に考えると何か恐ろしい台詞が聞こえた気がして身を乗り出して聞きなおす。それをみた沙織がくすくすと笑って私を見る。

「神話の時代からようやく勝利の女神が現世に降臨したのです。私も、貴女に是非ご一緒頂きたいです」
「そ、そんなこと言ったって…!来週でしょう!?作法とか、私全然分からないよ!!」
「ええ、ええ…分かっていますわ」
「さ、沙織、何をするつもり」

がたりと椅子から立ち上がれば、彼女もほぼ同時に立ちあがった。
浮かべられた、傍目からもよく分かる作り笑顔が逆に怖い。
そんな笑顔を浮かべた彼女が私に向かって歩いてくるのに合わせて私も後ずさる。

「ひっ」
「逃がしませんよ、なまえ」

とん、と壁に背中がぶつかり横に逃げようとした瞬間、私の顔のすぐ横の壁に沙織の両手が突かれて逃げ場を失った。沙織がにっこりと笑みを深くしたのに合わせて、私も乾いた笑みを浮かべる。

「む、無理強いはよくないと思うなあ!」
「勝利の女神としての正式な紹介の場にもなります。なまえ、」
「…さ、沙織」
「…観念してください」


ぐい、と服の襟を掴まれる。

沙織の背後には何時の間にか良い笑顔の女官さんたちがキトンやアクセサリーを大量に持って待機している。沙織が今彼女たちを呼び、それらの装飾品を準備させたとは思えない。ということは初めからこうなることを予測して待機させていたに違いない。というより、私が了承しようがしまいが、彼女には聞く気はなかった、ということだろう。

目があった沙織に作り笑顔を浮かべて「また今度」と告げたが、これはまた良い笑顔を浮かべた沙織は静かに首を振っただけだった。そうして彼女が指をパキンと鳴らした瞬間女官さんたちに囲まれ、服に手をかけられる。

「時間は多くは残されていません。今から練習に入ります」
「そ、そんな強引な…!あ、ちょ、ま…っ!ら、らめええええええ!!!」

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