「行ってきまーす!!!」

なんとも快活な声が教皇宮に響いた。

その声は教皇の間にいるシオン様とアテナのところ、さらにはその周囲で仕事をしている女官たちにまで聞こえていたのだが、それを発したのが勝利の女神である彼女だということが分かりきっていたから誰も文句を言うことはなかった。それどころか、有り余っているらしいその元気さに面白そうな、それでいて和んだような笑みを浮かべるだけだった。

それはシオン様やアテナも変わらないらしく、ふっと笑みを漏らして書類から目を離した。


「なまえは元気が有り余っているようで」
「彼女の仕事はそれなりにハードなものだったようです。聖域でのんびりと過ごすには少し退屈だったのかもしれませんね」
「いえ、アテナ。彼女を見ている限り退屈そうではありませんでした」

何しろ危険だから近づくなと言っていた森に何時の間にやら仲良くなったらしい貴鬼と一緒に探検に行ったり、気がつけば教皇宮を抜け出して十に宮をふらついたりロドリオ村に足をのばしたりしているくらいなのだからと言ったシオン様にアテナがくすりと笑う。「彼女が楽しいのなら私はそれで満足です」と言ったアテナにシオン様も微笑みを返す。


「親睦が深まっているようで何よりです」
「ええ。なまえはとても良い方です。サガ、なまえを追いかけてあげてください。彼女は今日市場に行くそうなのですが、一人では不安もあります」
「御意」

多分今頃十二宮の階段を下りながら、アテネへの行き方を考えているころでしょうと言ったアテナに頷き、シオン様と次の任務の話を一言二言交わした後、壮麗な教皇の間を出る。少し小走りで彼女の小宇宙を追えば、数分もしないうちに追いついた。どうやらふらりふらりと道端の花を眺めたり、青空を眺めたりしながら歩いていたらしいなまえが私を見てへらりと笑った。


「サガ!こんにちは」
「ああ、なまえ、アテネに行くのなら私が案内しよう」
「え、本当?」


実は道を知らなくてと笑ったなまえに、苦笑して彼女の隣に立つ。

今にもスキップをしそうな上機嫌の彼女が私を見上げて首を傾げた。「どうして私がアテネに行くって分かったの?」、小宇宙?と聞いた彼女に、アテナにお聞きしただけだと言えば、その簡単な答えに納得したのか前を見る。


「小宇宙で分かったのかと思った」
「全て小宇宙で分かってしまえばプライバシーというものが存在しなくなってしまう」
「それもそうだね」

くすくすと笑っていた彼女が急に大真面目な表情を浮かべて口を開く。「どっちが先にアテネにつくか競争しよう」「…聖域を出てしばらく歩いた後、テレポートするつもりでいたのだが」そう言えば、彼女は唖然として私を見る。その表情があまりにもおかしくて、つい吹きだせばなまえが顔を赤くして腕を振り上げた。

「なっ、なんで笑うの!!」
「い、いや、すまない」
「だ、だってテレポートが出来るなんて思わないじゃない!!あ…っ!!ていうことは、初めて会った時沙織がぱっと消えたのはテレポートだったのか…!!ていうかサガだけテレポートなんてずるい、私を置いていくつもりなのねー!」

案内してくれるって言ったのにー!とわあわあと騒ぎ始めた彼女に、一緒にテレポートをすればいいと言えば一瞬で黙りこむ。そしてしばらく考え込んだ後に顔を蒼くして私を見た。

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