「あ、サガ、シュラー!おはようー」
手をぶんぶんと振りながら駆け寄ってきた彼女におはようと返して微笑めば、彼女も嬉しそうに笑った。瞬間、足元の蔦に引っ掛かったのか盛大に地面に倒れこむ。
「ぐふっ」
「大丈夫か、なまえ!?」
「何をしているんだ…」
慌てて彼女のもとに駆けよれば、後ろからシュラが少し呆れたような声でそう呟いて私に続く。彼女はがばりと起き上がってへらりと笑った。「自然がいっぱいって良い事だよ。蔦に引っ掛かって転んでもね」なんて真意のつかめないことを笑いながら言った彼女が服をはたきながら起き上った。
「こんなところで何をしているんだ?」
教皇宮の裏、人通りなどほとんどないこの場所に何故勝利の女神がいるんだと不思議そうに言ったシュラに彼女が目をぱちりとさせる。「紅茶を淹れに来たの」「…は?」「紅茶を淹れに…」「…なまえ、お前は一体どの過程から紅茶を作るつもりなんだ。茶葉から作るのか」大真面目な顔でそういったシュラに彼女が首を振る。
「茶葉から作ったら完成までどれくらいかかるの!普通に淹れるよ!…淹れる、よ?」
そこまで言うと、居心地悪そうに視線をさまよわせた彼女に苦笑する。それに気がついた彼女が顔を真っ赤にして私から目を反らした。
「…なまえ、給湯室は柱廊を出て真っ直ぐ行った場所のつきあたりを左だ」
「ご、ごめんなさい、サガ…」
「方向音痴なのか」
ありがとう、と苦笑いした彼女にシュラが実にはっきりと聞いた。ぴしりと固まった彼女がシュラを見て顔をさらに真っ赤にさせた。
「違うよ!!仮に私が道に迷っていたとしても、紅茶を淹れるのにこんな場所まで来ないから!」
ただどこに給湯室があるのか分からなかっただけと、なまえはわたわたとしながらそう言って、もう一度お礼を言うと教皇宮内に走って戻って行った。その後ろ姿を眺めていたシュラが不思議そうに私を見る。
「…では蔦に引っ掛かって転んだのにも何か理由が?」
「…それはないだろう」
(沙織ー、お待たせ!!)
(紅茶とは淹れるのに二時間もかかるものだったのですか)
(き、聞かないで!!)
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