その意味を頭の中で反復しようとした時、彼が私の腕時計を指差す。つられて時計に視線をやる。

「今は何時か」
「…12時、だけど?」
「私の昼食を作っていきたまえ、なまえ」
「なんで上から目線なの」

まあ作ってあげるけど、お礼に私の事を拝んでも良いよ!と以前彼に言われた言葉をふざけながら返せば、シャカはフッと鼻で笑いやがった。


「今の君は拝むに足らん」


(なんでご飯を作ってあげるのにこんなボロクソ言われているんだろう)




「おや、シャカ。昼食中でしたか?」

チャーハンの香りが残る処女宮に足を踏み入れてそう言えば、シャカはすまし顔でもう済んだとだけ答える。彼が自分で調理をするなど明日は雨どころかペガサス流星拳でも振ってくるんじゃないだろうかと思っていると、奥からなまえが顔を出した。焦げ茶色の目が私を映しだす。

「あ、ムウ!こんにちは」
「こんにちは、なまえ」

やはりシャカではなく彼女が作ったらしい。
そうでしょうね、放っておけば永遠と座禅を組み続けるこの男が料理を作るはずがない。そんなことを考えていると、放置された皿を回収して奥に引っ込もうとしたなまえが足を止めて、もし昼食がまだなら食べて行かないかと言った。

「それは有難いです」
「じゃあ今持ってくるから、待っていてね」

そう言って今度こそ奥に引っ込んで行った彼女を見送った後、シャカに視線を移す。

「珍しいですね、貴方が会って間もない人の料理を食べるなど」
「それはそちらも同じことだろう」
「私は貴方が信用した方なら大丈夫と考えたまでですよ」

それに、どちらにせよ彼女は大分変わっているが女神が連れて来た女性だ。完全に信用したわけではないが、最初の頃の不信はもうない。(彼女が勝利の女神かどうかと問われるとまだ少し疑わしいが)
「あれは勝利の女神だ」

はっきりとシャカが言い切った。

「…分かるのですか?」
「ふむ」
「では、アテナの目指す平和が実現する可能性が?」

その問いにシャカがこちらに顔を向ける。相変わらず閉じられたままの瞼を見つめれば、しばらく沈黙した後シャカがぽつりと呟いた。


「…料理のほうは、あまり上手くない」


その割にはすっかりとたいらげていたが、と返事をしようと思って考え直す。

「………とても失礼ですよ」

そう別の言葉を口にして、それから質問に答えていないと言えば、彼は塩加減が少し強いと素っ頓狂なことを言ってついに私の言葉に答えることはなかった。直後調理場から謎の爆発音と彼女の悲鳴が聞こえてきて、そんな会話の事など頭のどこかへ行ってしまったのだが。


(え、えへ、ごめんね、卵が爆発して…)
(一体どうしたらフライパンで卵を爆発させられるんですか…)

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