「髪の毛サラサラ…」

その言葉に、シャカが目を閉じたまま振り返った。いつも思うのだが、彼はこれで景色が見えているのだろうか?特に転んだりぶつかったりすることなく歩いているということは、見えている…のかもしれないが、いや、でも普通は瞼を閉じていたら見えないはずだ。まさか、エスパー?ってそうじゃない、髪の毛がサラサラって話をしていたんだよ。

「いいなあ」
「そういうものなのか」
「そうだよ、サラサラストレートは乙女の永遠の憧れだよ」
「ふむ、私は乙女座なだけで」
「うん、ごめん。私自身を乙女とか称してごめん。わからなかったよね、どっからどうみても乙女じゃないし!あれだよ、ツッコミを入れてもらって会話を弾ませようっていう私なりのコミュニケーションで、」
「話は簡潔にまとめたまえ」


すっぱりと話を切りあげられてしまった。
けれど座禅を組みながらも、私の言葉にしっかりと返事を返してくれるシャカはなんだかんだ言っても優しいのだと思う。彼の前で体育座りしながら考える。うん、少なくともデスよりは優しい。宮の前でヤンキー座りをしながらタンポポを眺めていたらお尻蹴られて邪魔って言われたからね!地味に痛かったわ…!そういえば、タンポポってフランス語でオネショって言うらしいわ。ま○しばが言っていた。

「何を下らないことを考えているのか」
「え、やっぱりエスパー?」
「小宇宙を通じて思考が駄々漏れだ。もっとしっかりと鍛えたまえ」
「あの、その小宇宙ってなんなの?」

そういえば沙織も小宇宙がー、とか言っていた気がする。初めて聞いた単語でよく分からなかったのだが、ここ聖域では誰もが小宇宙、小宇宙とその単語を口にする。まるで知らないのは私だけかのように。(事実そうなのだろうが)

「私、小宇宙がなんだかわからない」
「宇宙だ」
「………うん」
「以上だ」
「えええええ、なにその説明!」

なんにも分からなかったよと言えば、シャカはいずれ分かると言って口を閉じてしまった。いずれっていつなんだろう。ぼんやりとそんなことを考えていると、シャカが顔を私に向けた。


「では次は私が質問しよう」
「はいはい、なに?」
「勝利の女神とはなんぞやと問われ、君はどう答えるのか」


静かな処女宮に彼の声が響いた。


「それはニケのこと?」
「君の事でもある」

澄ました顔でそう言われたが、未だに不思議なのだ。どうして私が勝利の女神なんだろう。沙織は小宇宙がそうだと言っていたが、それは私にはよく分からない。もっと、分かりやすい答えを私も彼のように探しているがそれは未だに見つからないままだ。けれど、もし“今”の私も“勝利の女神”だとするのなら、勝利の女神とは

「象徴的なもの、だと思う」
「ふむ」
「それ自体が何か力を持っていて事象に介入してくるわけじゃなくて、本当にいるだけで、何もできない存在だと」
「君は自身をそう思うのかね」
「だって私、何もできないもの」

その言葉にシャカは眉を少し上げたが、やがてもとの澄ました表情に戻った。

「やがて変わる。君に変わる意思があるのならば。覚えておきたまえ、事象とは象徴と対を描くものだ。だが象徴とはいえ時に勝利は事象になりえて、多くの場合それは未来を紡ぎ出すということを」
「え?」

突然何かよく分からないことを彼が言った。

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