瞬間額にごつんと飛んできたファイルに耐え切れず無様に尻もちをついて倒れた。
「…いたっ」

一体なんのイジメだ!身長羨ましいと思っただけなのにこの仕打ち…!
それにしても強力なファイルの一撃に一瞬星が見えた。くらくらする頭を押さえて上半身を起こせばアイオリアが驚いたように声をあげた。

「ニケ女神!?」
「いった…、あ、女神よりなまえって呼んで欲しい」
「そんなことはどうでもいい!」
「えー!どうでも良くないよ!」
「だ…、大丈夫か、誰だ今ファイルを投げたのは!!」
「すまない…!!」
「…サガ!?まさか!」

真っ青の目が私を見て、わたわたとしながら駆け寄ってきた。私の手元に落ちたファイルを拾って手渡せば、後ろのほうでデスが頬をかきながら目を反らした。ううん、怪しい。

「デッちゃん、そんなに私の事が嫌いだったのね!」
「誰がデッちゃんだ!変な呼び方をするな!それから俺じゃねえ。俺は避けただけだ」
「す、すまない、私がデスマスクに投げたのだ」
「いや、別にそんな謝らなくても…、あ、でもサガが猫耳つけてごめんなさいにゃんとか言うのは聞きたい、絶対かわいい」
「やっぱり頭を打ったのか、おい誰か医者を呼べ」
「失礼ね、蟹ちゃん」
「おい、取り消せ、俺は蟹じゃない」
「そっか、ごめんなさい、聖衣仮面さん」
「意味が分からねえよ、原型がないじゃねえか!!」
「え、でもデスマスクで、マスクってあるし…」
「まあ、怪我がなかったのなら何よりです、ニケ」
「なまえって呼んで欲しいにゃん」
「おえ」
「上等な反応ね、タキシードさん」
「もはや誰だ」

なんとか仮面ときたら、タキシードのあの人しか思い浮かばなかったのだが、どうやら彼は違ったらしい。首を傾げた聖衣仮面さんを傍目に立ちあがる。目の前に膝をついていたサガも同じように立ちあがってファイルの直撃した額を覗きこんできた。

「本当に、なんとお詫びをすべきか」
「なんともないから平気だよ、サガ。気にしないで」
「ですが、もしかしたら腫れてくるかもしれません。カミュ、一緒に行って袋を貰ってきて氷でも入れてあげてください」
「分かった、ではニケ」
「なまえ」
「…なまえ」
「いや、待ってくれ。責任は私にある。私が一緒に行こう」
「…そうか?では、頼む」
「でしたら三人で行かなければ。氷が必要でしょう」
「いや、私大丈夫だよ」
「万が一ということもあります。さあ早く」

そんなに言うのなら、と付いてきてくれるらしいサガとカミュと一緒に教皇の間を出る。多分、まだ沙織やシオンが来るまで時間があるから大丈夫だと思う。背後で教皇の間の扉が重厚な音を立ててしまったのを聞きながら、三人で足を進めた。



「変な女だな、本当に」
「デスマスク、女神に対して失礼ですよ」

ぽつりと呟いたデスマスクにそういえば、彼の隣に立っていたミロまで肩をすくませてみせた。

「そうは言っても、小宇宙も何もかもが人間にしか見えないのだが」
「それは…、そうですが」

アテナが彼女をニケ女神だと言っているのだから、間違いはないのだろうと言えばデスマスクが頭をかきながら呟いた。

「どっちにしろ、変な女だろ」


それに対する否定の言葉は、誰からも出てこなかった。


(私としては、デスマスクが彼女にからかわれたからそう思うだけだと思うのですが、)

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