十二宮と呼ばれる山のふもとにたどり着いたころにはすでに私のライフは0だった。やめてー、もう私のライフは0よ!!視線の嵐もそうだったが、急な坂道を登ったり降りたり、時には階段を使ったりとそういった道を繰り返しただけですでに私の息は上がっていた。やっぱりデスクワークしかしてこなかったせいもあって体がなまっていたようだ。私の馬鹿、何が体育が得意だったよ。荒い息を無理矢理深呼吸でしずめる。

それを見た邪武君が苦笑いを浮かべた。

「ごめん…」
「いえ…」
「なまえさん、休憩が必要ですか?」
「ううん、いいよ、行こう」

それにしてもなんで沙織はそんなぴらっぴらのワンピースといういでたちで息の一つも上がらないのだろう。その体力が少し羨ましい…。あ、あと体型も羨ましい!

歩みを止めることなく進む沙織と邪武君の後を必死に追う。長い長い階段を必死に二人を追いかけながら登っていくと、何度か神殿のような建物を通り過ぎた。しんと静まり返ったその場所には誰の姿も見当たらず、どこか物寂しさを感じさせる。沙織と邪武君は立ち止まることなく、前だけを見据えて歩き続けていたが、とうとう、五つ目に通りかかったその場所で我慢できずに二人に声をかけた。


「すごく、静かな場所なんだね?」
「ええ、今ここには誰もいませんから」
「誰も?」
「ええ、女官も神官も、聖闘士も人払いをしています。こうして、通り過ぎるためにしかここは使っていません」
「こんな立派な建物なのに?」
「宮の主が今はいませんから」

彼らも自分のいない間に他者にこの場所が荒らされることをよしとしないでしょうと言った沙織の言葉で気がつく。下から見上げた時、教皇宮とアテナ神殿を抜かして十二個の建物が立っていた。なら、これが彼女のこの間言っていた黄金聖闘士と呼ばれる人たちのものなのだろう。変なことを、言ってしまったかもしれない。

「…あの、」
「気にすることはありませんよ。それに昨日、ハーデスとの交渉が成立しました」
「え、じゃあ!」
「ええ、彼らはここに戻ってきます」

足を止めて振り返った沙織が、本当に嬉しそうに笑った。彼女の隣に立っていた邪武君も合わせて笑う。

「お、おめでとう!!良かったね!!」
「ええ!ですから、後は星矢…」
「…?」
「お嬢様、とにかく先に進みましょう。お話は教皇宮でごゆっくり」
「ええ、そうですね、邪武」

少し表情を曇らせた沙織に、邪武君が言葉をかける。すぐに凛とした表情を取り戻した沙織が私を見ると、僅かに微笑みを浮かべて先に進みましょうと呟いた。それに頷いて、歩きだした彼女たちの後を再び追う。

「、」


その建物から出るときに、一度だけ足を止めて振り返る。

しんと静まり返った薄暗い建物。ここに帰ってくる人はどんな人だろう?仲良くなれるだろうか。「ホアアアアチョオオオオ!!!」とか言いながらぬんちゃくを振りまわすタイプの人ではないと良いけど。ううん、私の想像がおかしいのか?でももしかしたらいるかもしれない。十二人もいたら、一人くらい露出狂とかキン○クマンとかいてもおかし…いか、さすがにそれはないな。安心安心。

「なまえさん、行きますよ!」
「ごめん!今行くー!!」


遠くから呼びかけられて慌てて沙織たちのほうへかける。
静かな建物を、風が吹き抜けて行った。

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