「お仕事も御家族も、城戸財団で全て面倒をみさせて頂きます」
「は、」
「まずは一週間。なまえさんはギリシアの聖域に来て頂いて、お考えください。もちろんそれで肌に合わぬと感じたのなら、このお話は蹴ってくださって構いません。ですが、もし聖域という場所を、そして聖闘士という人たちを気に入り守りたいと思ってくださったときは、そのままその状況を継続してもらいたいのです。どうですか、まず一週間」
「…本当に、まずは一週間?」
「ええ、ステュクス川に誓って。一週間後の行動は、なまえさん自身に任せます」
一週間。
まったく知らないギリシア、それから聖域という場所で過ごす。
けれど家族や仕事のことは心配しなくてもいいらしい。
正直なところ、一番気にかかっているのはそのことだったから、それを気にしなくていいのだとしたら少しは前向きに考えられるかもしれない。あとの問題は、そこが海外だということだ。どうしよう、私は海外に出たことなんてほとんどない。一週間も生活できるだろうか?食べ物とか、お風呂とか…。それに治安の問題もある、のではないだろうか。日本はかなり平和で治安も良い国だし、少し不安かもしれない。
「聖域は聖闘士が守っていますから、なまえさんの危惧するような事態は起こさせませんよ。生活面に関しても、前向きに考えても問題ないでしょう」
「あれ、考えている事分かった?」
「ふふ、お顔に出ていました」
「ご、ごめん…」
けれど、それなら良いかもしれない。
嫌だったなら、一週間でやめられるのだし…。
「うん…、うん!私ギリシアにいくよ、沙織」
「本当ですか?そう言って頂けて嬉しいです」
ここにきてようやく、今までで一番少女らしい笑みを浮かべた沙織に少しだけ親近感がわいた。今までなんというか毅然としていてあまり親しみやすい雰囲気ではなかったが、なんだか彼女とも上手くやっていける、気がする…。
「よろしくお願いします、なまえさん」
「うん、よろしくね、沙織」
そう言って微笑んだ沙織の手をとる。
新しい生活へ踏み出す一歩になることをこの時の私はまだ知らなかった。ただ、初めてのギリシアへの期待と不安でいっぱいいっぱいだったのだ。
(で、聖域ってどんな場所?)
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