「うっふっふふふふふ」
「こわっ!怖いよ、沙織ちゃん!」
「あら、ごめんなさい」

突然背後から聞こえた笑い声に驚いて紅茶のカップを落とす。がしゃんと床に落ちたそれを慌てて拾い割れていないことを確認する。飲み終わっていて良かった。掃除はしなくて済む様だ。


「急にどうしたの、沙織ちゃん」

誰もいないと思っていたと背後にたつ彼女にそう言えば、沙織ちゃんはにっこりと笑った。そして私の指輪を指差して、上手く言ったのですねと幸せそうに、本当に幸せそうに笑った。ああ、なんて良い子なんだろう。そして人のことを、自分のことのように喜べるこの純粋な子に、こんなにも喜んでもらえるなんて、私は幸せなのだろう。

「実はアイオロスから色々と相談を持ちかけられまして・・・」
「え、そうなの?」
「指輪のサイズと宝石の色はアフロディーテが調べ、私たちが指輪を選んでいる際なまえさんの意識をそらすのはデスマスクに頼みました。彼は失敗したそうですが。皆でアイオロスに協力したのです。成功して良かった」

そういえば、サガさんに執務室に来いと言われた時、デスマスクさんも私を誘ってくれていたなと思い出す。なるほどあの時アイオロスさんと沙織ちゃんが指輪について話し合ってくれていたのかと考えた瞬間、なんだか気恥ずかしくなって頬に手をあてた。ああ、熱い。きっと赤くなっているのだろうと息をついたとき、沙織ちゃんが微笑んだ。

「なまえさん、本当におめでとうございます」
「うん、ありがとう、沙織ちゃん」

そう言って私も笑い返せば、沙織ちゃんはさらに笑みを深くした。本当に、人のことを自分のことのように喜んでくれるこの子はなんて良い子なんだろう。と、考えた瞬間、沙織ちゃんに手をがっしりと掴まれた。

「それで・・・?一体どこまでいったのですか?そしてアイオロスはどのような雰囲気で、そしてどんな言葉でなまえさんにプロポーズをしたのですか!?それに対するなまえさんのお返事は?さあ、お聞かせください、なまえさん!!」
「ちょ、沙織ちゃん、落ちついて!」
「これが落ち着いていられますか!」

笑いながら追いかけてくる沙織ちゃんから、私も笑いながら逃げる。

ああ、なんて楽しい。
一年前、まだ私はここにいなかったなんて、信じられない。あちらでの生活は確かにつまらなくはなかったけれど、こんなに日々が楽しく、幸せを実感できるようなものではなかった。この場所に来てから私は、笑って、時々泣いて、怒って、それからまた笑って、本当に幸せな日々を送っている。優しい沙織ちゃんの傍で、賑やかで暖かな人たちの傍で、愛おしい彼の傍で!ああ、これが幸せというものなのだろう!

私に飛びついて来た沙織ちゃんと一緒にベッドに倒れこむ。なんだか、とても笑いたい気分だった。そんな私を見て、沙織ちゃんが不思議そうに首を傾げた。

「なまえさん?」
「ありがとう、沙織ちゃん!本当に、ありがとう」
「・・・?どういたしまして、なまえさん」

これもそれも全部、私を追い出さずにここに置いてくれた沙織ちゃんのおかげだ。私と、彼との関係も、全て、彼女がいなければ始まらなかった。ありがとう、ありがとう沙織ちゃん。ぎゅ、と彼女を抱きしめれば、沙織ちゃんは不思議そうに私を見上げたが、すぐに微笑んで抱きしめ返してくれた。彼女たちが選んでくれたという指輪が、日光を受けてきらりと光った。











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