「花火を頂きました」


ガサリとなったビニール袋から線香花火を取り出せば、アイオロスさんが不思議そうにそれを眺めた。夏休みだからと聖域に遊びに来ている星矢君たちに貰ったものだ。きっと今頃彼らも教皇宮で沙織ちゃんを囲んで花火大会でもやっているのではないかと言えば、彼は首を傾げる。


「花火?」
「日本の、あの、えーと、ギリシャでもやっているじゃないですか。ロケット花火祭り」
「なまえ、こんなに小さいものでロケット花火祭りをやるつもりかい?」
「いや、さすがにこれでロケット花火祭りをやるわけでは…」


というかどう考えてもロケット花火祭りには数が足りない。あと大きさ的にも、私の手元にある線香花火ではとうてい及ばない。それにしても、ロケット花火祭り、あれは本当に意味が分からない祭りだ。この間夕飯の買い出しでアテネにムウさんと出かけたときに立ち寄ったバーのテレビであの祭りを見たが、正直理解できなかった。彼らは一体何がしたいのか。

「それに、私そこまで花火は好きではないので、線香花火しかないですけど…」
「センコウ・・・?」
「えーと、ばちばちしゅーぽとっ、みたいな・・・、いや、・・・うん、取り合えずやりませんか。火と水を準備してやりましょう」

人馬宮の外も、夕暮れ後の真っ暗ななこの時間に誰かが訪れてささやかな線香花火大会に迷惑するということもないだろうと提案すれば、アイオロスさんは頷く。だが彼の視線は相変わらず花火に注がれていて、彼のために普通の花火も持ってきてあげれば良かったかなと考える。・・・いや、もしアイオロスさんが気に入ってくれたのなら、今度は買いに行けばいい話だ。ギリシャで日本の花火が打っているかは甚だ疑問だが、まあ探せばなんとかなるだろう。最終手段はお取り寄せだ。

そんなことを考えながら、さっさとバケツに水をためて宮の外に準備する。その間にライターを持って出てきたアイオロスさんが、花火の袋に着火しようとするのを全力で拒否する。袋ごと着火するなんて意味が分からない。豪快にも程があるだろう。なんとか花火を守り抜き、せっかくの線香花火が一瞬で燃え尽きるところだったと呟きながら、アイオロスさんに一本の線香花火を渡せば、彼はそれをしげしげと眺めた。

「細い、それに小さいんだな」
「あの、そろそろロケット花火と比べるのは止めましょう。あれとは違いますから!」
「ここに火をつけるのか?」
「はい。あ、気をつけないとすぐに落ちちゃいますからね」
「落ちるって?」
「説明するより一度見たほうが早いと思います。どうぞ」

ライターを着火してやれば、アイオロスさんが線香花火に火をつけた。ぱちりぱちりと線香花火が輝き始め、火薬の独特の匂いが満ちる。ああ、それにしても、やっぱり線香花火は綺麗だ。普通の花火はぶわあああ!と火花を吹くから恐ろしくて仕方がないが、線香花火ならば控え目で私も扱うことができる。ぱちぱちと輝くそれを横目に見ながら私も線香花火に着火した。

「どっちが長持ちするか競争しましょう!」
「明らかになまえのほうが火をつけるのが遅かったぞ!」
「アイオロスさん、あんまり動かすと・・・、あ、落ちた」

ぽてっと地面に落ちてぷすりと消えた火花をしばらく沈黙して眺めていたアイオロスさんが顔を上げる。

「呆気ない!」
「この呆気の無さが良いんですよ!風流です!日本らしくて良いじゃないですか!諸行無常の響きありって・・・、あれ?これは違うかな。・・・あ、私も落ちちゃいました」
「本当に、呆気なさすぎる。でも、綺麗だ」
「綺麗ですよね」
「なまえ」
「はいはい、どうぞ」

にこにこと私を見た彼に新しい線香花火を渡して、古いほうを受け取る。それをバケツに突っ込むのと、彼が火をつけたのは同時だった。ぱちりぱちりとまた輝き始めたそれを、じーっと眺めるアイオロスさんはどこか面白かった。

「こういうのは、珍しいですか?」
「ああ、気に入ったよ」
「ふふ、良かったです。まだたくさんありますよ!」
「それは楽しみだ」
「アイオロスさん」
「なんだい、なまえ」
「今度はアイオリアさんたちも呼んで、皆で花火をやりましょう」







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